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Q3.調査とは相談からの流れ

妻が医療ミスにあったので、知り合いの弁護士に相談したところ、「調査をしましょう」とのことでした。
「調査」とは、何をしてくれるのでしょうか。

1.「調査」とは?

医療ミスに遭ったと弁護士のところに来られる相談者の中には、すぐに裁判(訴訟)を起こして医師・医療機関の責任を明らかにできると考えている方もおられます。しかし、医療事件は、医療という高度に専門的な分野を扱うものであり、また、診療行為の多くが患者側に見えないところで行われているため、弁護士も、依頼者から相談を受けただけでは責任追及ができるかどうかの見通しを立てることはできません。

たとえば、手術中に患者が死亡したという例をとっても、患者の死因が何か、死亡するまでにどのような経過をたどったか、そのような死因や経過は医療ミスによるものといえるのか、それともやむを得ない合併症によるものなのか、相談者のお話しを聞いただけでは判断できません。

したがって、医療事件の場合は、一般的な事件と異なり、最初の相談を受けて、直ちに訴訟にとりかかるということは原則としてありません。

その前に、「調査」を行って、事実関係や、医療ミス(過失)の有無、また、医療ミスがあるとしても、死亡や後遺症などの被害がその医療ミスによって生じたものといえるか否か(因果関係の有無)などについて、慎重に判断していくことになります。

2.「調査」の意義と内容

「調査」は、弁護士が、当該事案が責任追及をすることができる事案か、医療ミスの有無や、医療ミスと被害との因果関係を証明できる見込みがあるか否かを判断していくために行う手続きです。十分な調査を行い、相手方の反論を念頭に置いた準備を尽くしてから医療機関の責任を追及することで、妥当な解決の見通しをもって迅速な解決を図ることができます。

「調査」の内容には、主として
①診療記録の入手
②医学文献の調査
③協力医の意見聴取
④相手方医療機関による説明会の実施
があります。

①診療記録(カルテ・看護記録・検査記録・画像など)の入手は、患者の症状の経過、診療行為の内容、診療当時の医師の認識・判断を知るために必要不可欠です。診療記録の入手方法としては、「証拠保全」による場合と、「カルテ開示」による場合の二通りがあります。

「証拠保全」は、裁判所に申し立て、裁判官と一緒に医療機関に赴き、その場でカルテを提出させて、保存する方法です。保存のために専門業者(カメラマン)を同行して写真撮影してもらうこともあります。事前の予告なくカルテの提出を求められることから、カルテの改ざんの危険性は少なくなります。ただし、証拠保全前の改ざんを防止することまではできません。他方、裁判所を介して行う手続きであるため、「カルテ開示」に比べて費用や時間がかかるというデメリットもあります。

「カルテ開示」は、医療機関に申し入れを行い、実費を払って診療記録のコピーをもらう方法です。近時は、多くの医療機関がこの「カルテ開示」に応じるようになってきており、「証拠保全」と比べて短い期間・安い費用で診療記録を入手することが可能となりました。ただし、あくまで医療機関に任意の開示を求める手続きですので、事案によっては開示を拒否されることもあり、また改ざんの危険性は「証拠保全」より相対的に高まります。

いずれの手続きをとるかは、改ざんの危険性や費用の面などを考慮し、担当弁護士と相談して決めることとなります。

②医学文献の調査では、弁護士が、大学医学部図書館、医学文献提供サービスなどを利用して、その事案に関連する文献を収集し、事案にあてはめ検討します。もっとも医学文献から得られるのは、あくまで一般的な知識に限られます。当該事案に即した医学的判断を得るためには、③協力医の意見聴取を行うことが必要となります。

③協力医の意見聴取では、当該事案で問題となっている診療科目の専門医に、診療記録等を検討してもらい、当該事案に関する医師の意見を求めます。なお、診療科目や疾患の種類、医療行為の内容によっては、協力医がなかなか見つからないこともあります。協力の形態としては、匿名で意見を述べることに限定される協力医が多いですが、裁判所に提出するための意見書を書いてくれたり、法廷での証言をお願いできる協力医もおられます。ただし、その数は必ずしも多くはありません。

④相手方医療機関による説明会は、担当医や当該診療科の責任者たる医師ら立会のもとで、患者の症状の経過、診療行為の内容、診療当時の医師の認識・判断、被害の発生状況、発生の原因について、相手方医療機関の説明によって明らかにする手続きです。診療契約は、民法でいう「準委任契約」に該当し、本来医療機関は「準委任契約」に基づく説明義務を負います。そのため、多くの医療機関では説明会を開催して説明に応じてもらえます。しかし、中には、説明会の開催を拒否したり、書面でのみ回答を行うという医療機関もあります。

説明会で明らかとなった相手方医療機関の言い分の妥当性について、あらためて文献調査を行ったり、協力医の意見を聴取したり、場合によっては再度質問等をすることもあります。

また、医療機関で「事故調査委員会」を設置し、事故原因について調査する例もみられるようになっています。平成27年10月1日からは、「医療事故調査制度」が始まりました。「医療事故調査制度」とは、医療事故死亡事例が発生した医療機関において院内調査を行い、その調査報告を民間の第三者機関(医療事故調査・支援センター)が収集・分析することで再発防止につなげる制度です。院内調査結果の遺族への説明は、口頭又は書面(報告書又は説明用の資料)若しくはその双方の適切な方法により行うこととされています。医療問題弁護団では、医療事故調査制度で適切に原因究明や遺族への対応がなされるように、医療機関への申し入れなどの支援をしています(詳しくは、担当弁護士にご相談ください。)。

担当弁護士は、以上のような調査を通して、医療機関のミス(過誤)の有無や医療ミスと被害との間の因果関係について、慎重に判断していくこととなります。

3.「調査」にかかる期間と報告

調査が終了するまでの期間は事案の複雑さや協力いただける医師が見つかるかどうか等により左右されますが、およそ半年から1年を必要とすることが多いです。

調査の終了時には、調査の結果について、担当弁護士から依頼者に対し、報告がなされます。責任追及の見込みがある場合は口頭で報告されて、責任追及の手続きに移ることが多いでしょう。他方、責任追及が困難な場合は、書面で報告が行われるのが通常です。

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