医療問題弁護団とは?

  • 代表者プロフィール
  • 医療問題弁護団の概要
  • 最近の活動
  • 提供するサービス
  • 医療的専門知識の習得
  • 弁護団による集団的検討のシステム
  • 苦情解決システム
  • 入団を希望される弁護士の方へ

団員解決事件

  • 団員解決事件一覧

相談から訴訟等までの流れ

  • 相談
  • 調査活動
  • 訴訟等
  • 費用
  • 相談票ダウンロード

医療事故Q&A

  • 1.医療ミスを疑ったら
  • 2.法律相談準備 - 弁護士に相談するにあたって
  • 3.調査とは
  • 4.専門家(医師)の協力
  • 5.医療機関による説明(説明会)
  • 6.責任追及について
  • 7.医療裁判の流れ
  • 8.費用について
  • 9.医療裁判の現状

弁護士の声(団員リレーエッセイ)

プレスリリース

医療過誤判例集

各地相談窓口連絡先

各種資料

リンク

個人情報の取扱いについて

医療問題弁護団

プレスリリース

日付 :2018年10月

全国医学部長病院長会議の「発信」に対する意見書


一般社団法人全国医学部長病院長会議は,2018(平成30)年3月9日付にて同法人の大学病院の医療事故対策委員会作成の「病院に勤務する医師の皆様にご理解いただきたいこと」と題するペーパーを,同月26日,会員,医師会,病院団体等に発信しました(以下「本発信」といいます。)。本発信は,外表の異状を認めなければ医師法21条の届出義務は存在しない等の見解を示すものです。
しかし,この見解は明らかに誤っています。本発信の見解に基づけば,医師が誤った理解の下,医療事故死につき医師法21条に基づく届出をせず,同法違反により刑事罰を受ける事態を引き起こすおそれがあります。
そこで,当弁護団は,かかる事態を防止する必要があると考え,標記の意見書を作成し,本発信が誤りであることを説明し,意見を述べることとしました。
2018(平成30)年10月29日,同意見書を,全国医学部長病院長会議,同会議所属の大学の学長ないし医学部長,大学病院長,厚生労働大臣,日本医師会,日本病院会,日本精神科病院協会,日本医療法人協会,全日本病院協会に送付して,医療事故に対し適切に対応していただくよう求めました。また,厚生労働省医政局医事課には意見書の趣旨を説明してまいりました。
以上のご報告をするとともに,医師法21条の解釈を正しく理解していただきたくようお願いする次第です。

【追記】
平成31年2月8日付厚生労働省医政局医事課長通知医政医発0208第3号「医師による異状死体の届出の徹底について」にて,厚生労働省は,「医師が死体を検案するに当たっては、死体外表面に異常所見を認めない場合であっても、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況等諸般の事情を考慮し、異状を認める場合には、医師法第21条に基づき、所轄警察署に届け出ること。」との見解を示しました。意見書作成等の成果と考え,ご報告いたします。



医師法21条に関する全国医学部長病院長会議の「発信」に対する意見書

2018(平成30)年10月20日
医 療 問 題 弁 護 団 
代 表  弁 護 士   安  原  幸  彦
(事務局)東京都板橋区徳丸3-2-18
まつどビル202 きのした法律事務所内
電話 03-6909-7680 FAX 03-6909-7683
HP http://www.iryo-bengo.com/

意見の要旨


1 2018(平成30)年3月9日付全国医学部長病院長会議 大学病院の医療事故対策委員会作成の「病院に勤務する医師の皆様にご理解いただきたいこと」に示された医師法21条の解釈は、誤りである。(本意見書 第1参照)


2 医師法21条にいう死体の「異状」とは、死体自体から認識できる何らかの異状な症状ないし痕跡が存する場合だけでなく、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況、身許、性別等諸般の事情を考慮して死体に関し異常を認めた場合を含む。(本意見書 第3参照)


3 医療事故によって患者が死亡した場合も、医師は、医師法21条の規定により所轄警察署への届出を行う義務がある。(本意見書 第4参照)




意見の理由


目次


第1 はじめに

第2 全国医学部長病院長会議による「発信」の概要

第3 医師法21条の「異状」は外表の異状に限られない

第4 医療事故死は医師法21条の届出義務の対象となる

第5 医療安全に向けた要望



第1 はじめに

当弁護団は、東京を中心とする約250名の弁護士を団員に擁し、医療事故被害者の救済、医療事故の再発防止のための諸活動を行うことを通じて、患者の権利を確立し、かつ安全で良質な医療を実現することを目的とする団体である。

医師法21条には死体等検案医の異状死体届出義務が規定されている。当弁護団では、医療事故死についての届出義務の有無をめぐって同条の解釈に意見の対立が見られたことから、2001(平成13)年12月20日、意見書「医療事故と異状死体届出義務について」において、医療事故によって患者が死亡した場合も、医師は、異状死体等の届出義務を課した医師法21条の規定により速やかに所轄警察署への届出を行う義務があるとの意見を具申した(http://www.iryo-bengo.com/general/press/pressrelease_detail_2.php)。その後、法解釈上、医療事故死も同条の届出義務の対象となることは、医師法21条違反が問われた都立広尾病院事件最高裁判決(最判2004(平成16)年4月13日刑集58巻4号247頁。以下「最高裁判例」という。)によって確定した。

ところが、近年、医師法21条にいう死体等の「異状」とは死体の外表に異状を認めた場合に限るものであり、かかる判断を最高裁判決が示したとする、誤った見解が流布されるに至っている。そのため、当弁護団は、2015(平成27)年2月3日、「『現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会最終報告書』に対する意見書」(以下「2015年意見書」という。)57~66頁において、かかる見解が誤ったものであることを詳細に指摘した(http://www.iryo-bengo.com/general/press/pressrelease_detail_42.php)。

今般、一般社団法人全国医学部長病院長会議もまた、2018(平成30)年3月9日同法人の大学病院の医療事故対策委員会作成の「病院に勤務する医師の皆様にご理解いただきたいこと」と題するペーパー(本書末尾添付)を、同月26日、病院、病院団体に発信し(以下「本発信」という。)、外表の異状を認めなければ医師法21条の届出義務は存在しない等の見解を示すに至った。この見解は後述のように明らかに誤っている。

本発信の見解に基づけば、医師が誤った理解の下、医療事故死につき医師法21条に基づく届出をせず、同法違反により刑事罰を受ける事態を引き起こすおそれがある。当弁護団は、かかる事態を防止する必要があると考え、このような事態を引き起こしかねない本発信を全国医学部長病院長会議は撤回すべきと考える。

そこで、以下、本発信が誤りであることを説明し、意見の要旨のとおりの意見を述べるものである。



第2 全国医学部長病院長会議による「発信」の概要

1 本発信の記載内容

本発信は、おおむね以下のように記述する。

Ⅰ 医師法21条に関連して

1)医師法21条の届出義務にいう「異状死体(死亡を伴う犯罪に係る可能性のあるもの)」とは「外表を検査し異状を認めた場合」に限られるとするのが最高裁判決(2004(平成16)年)の立場である。
2)医療過誤による死亡などの警察への届出を指導した「旧厚生省による国立病院リスクマネジメントマニュアル作成指針」は2012(平成24)年に厚生労働省医事課長が「医師法21条の解釈を示したものではない」と見解を示しているので、医師法21条を根拠とした警察への医療事故を届出することは撤回されている。
3)2014(平成26)年に田村厚生労働大臣が「医師法21条は医療事故などを想定したものではなく、法律制定時から変わっていない」と述べた。

Ⅱ その他

1)医師法21条の届出義務は外表の異状を認めた場合である。しかし明確に病死と判断されなければ検察官の検視に協力することを目的に警察署に届出ている。
2)(略)
3)大学病院など地域の中核的な病院において紹介患者につき前医の行為が死亡の原因と考えられた場合には医療事故としてどのように扱うか(医療安全調査機構への報告など)を含め前医とともに検討することが求められ、医師法21条に関する従前の解釈によるなどして(Ⅰ2)、Ⅱ1)参照)警察署への届出を盲目的に行ってはならない。


2 本発信の趣旨

上記記述を要約すると、本発信のいわんとするところは下記の内容であろう。

1)医師法21条の届出義務の対象は、外表に異状を認めた場合のみである。 最高裁判例も、「外表の異状」を認めた場合を同条の届出義務の対象としている。
2)医療事故死は医師法21条の届出対象から除外されている。
厚生労働省は、医療事故死が医師法21条の届出対象であるとした見解を撤回している。
3)後医は、前医の行為による死亡と考えられる場合について、現行の医療事故調査制度の下での医療事故報告も謙抑的にすべきである。

3 本発信に対する当弁護団の意見

上記2の(1)、(2)は誤った見解であるので、それぞれ本書の第3及び第4で正しい見解を説明し、(3)については第5で当弁護団の意見を述べる。


第3 医師法21条の「異状」は外表の異状に限られない

1 最高裁判例について

最高裁判例は医師法21条にいう「異状」を「外表の異状」に限定していない。

2015年意見書(http://www.iryo-bengo.com/general/press/pressrelease_detail_42.php)57~66頁で指摘したとおり、現行の医師法21条の異状は、その前身である旧医師法施行規則9条時代からの沿革や立法趣旨、行政運用等において、外表面の異状に限定されていない。

また、医師法21条に関する東京地裁八王子支部1969(昭和44)年3月27日判決(刑裁月報1巻3号313頁)は、「医師法にいう死体の異状とは単に死因についての病理学的な異状をいうのではなく死体に関する法医学的な異状と解すべきであり、したがって死体自体から認識できる何らかの異状な症状乃至痕跡が存する場合だけでなく、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況、身許、性別等諸般の事情を考慮して死体に関し異常を認めた場合を含むものといわねばならない。」と判示している。これによれば「異状」は外表面の異状に限定されない。

そして、最高裁判例とその原審の高裁判決では、「異状」の解釈は論点とされておらず、過去の裁判例における「異状」の解釈に何ら言及せず、変更する旨述べていない。このことから、従前の異状の解釈を踏襲したものと解される。この点、最高裁判例解説においても、「本件届出義務の前提である『異状』性は、一般に、法医学的な意味での異状性をいうと解されている」と述べ※1 、上記東京地裁八王子支部判決を引用している※2 。また、法律家の判例解釈や学説においても、最高裁判例が「異状」を外表異状に限定したと述べる論考は見当たらない。

むしろ最高裁判例は医師法21条の届出義務について、「検案」が自己の診察してきた患者にも適用があること、同条が医師の自己負罪拒否権(憲法38条)に抵触しないことをいずれも明確に述べることで、同条の届出対象を拡大したと解釈・評価されるものである。最高裁が、「検案」の解釈に関して「外表の検査」としたことをとらえて、それを「異状」の解釈にまで拡大するのは明らかな誤りである。


2 国会議員や医療界における検討内容について

立法を司る国会議員の検討においても、医療界においても、医師法21条の異状を外表の異状のみに限るとする見解は、近年見られ始めた一部の意見にすぎない。


※1 芦澤政治「一,医師法21条にいう死体の『検案』の意義 二,死体を検案して異状を認めた医師がその死因等につき診療行為における業務上過失致死等の罪責を問われる虞がある場合の医師法21条の届出義務と憲法38条1項」平成16年度最高裁判例解説刑事篇198~199頁
※2 前掲芦澤221頁の注16

(1) 政府与党内ワーキングチームのとりまとめ

2014(平成26)年6月18日、医療法改正により、法律の定める医療事故死を報告・調査等する医療事故調査制度が成立した。医師法21条に基づく異状死体等の届出は、従来の法の解釈の下に行われることが予定され、上記医療法改正では変更が加えられなかった。ただし、同法附則により、医師法21条による届出と新しい医療事故調査制度の下での報告等のあり方について、公布後2年以内に見直す規定が設けられた。

この見直しに関する政府与党内ワーキングチーム(自由民主党政務調査会 社会保障制度に関する特命委員会 医療に関するプロジェクトチーム 医療事故調査制度の見直し等に関するワーキングチーム。以下「ワーキングチーム」という。)が、2016(平成28)年6月9日「医療事故調査制度等に関する見直しについて」との書面

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000126996_1.pdf(以下「見直しについて」という。))を発表した。

「見直しについて」4頁では、医師法21条の届出対象につき、次のとおり、指摘している。

(外表以外の要素の考慮)

医師法第21条の届出に当たり異状の有無の判断を行う際、現行法の運用では、昭和44年の東京地裁八王子支部判決において判示されているように、外表以外の要素についても考慮すべきと解釈されていると考えられ、当ワーキングチームでもこれを支持する意見が多い。

一方で、検案が「外表の検査」であることを踏まえ、外表以外の要素は考慮する必要がないという意見もある。

すなわち、医師法21条の届出の範囲が外表に異状がある場合のみであるというのは、ワーキングチームでも一部少数の意見にとどまる。

(2) 医療界におけるガイドライン、報告書等の内容

また、医学界等における医師法21条の届出に関するガイドライン、報告書等をみても、2002(平成14)年の外科学会ガイドライン、広尾病院事件最高裁判決後の2005(平成17)年の日本学術会議第2部・第7部報告「異状死について-日本学術会議の見解と提言-」、2016(平成28)年の日本医師会医事法関係検討委員会答申「医師法第21条の規定の見直しについて」など、いずれも医師法21条の異状を外表面の異状に限定していない。

(3) 小括

したがって、医師法21条の異状を外表の異状のみに限るとする見解は、国会議員の検討においても、医療界においても、一部少数の意見に過ぎない。


3 本発信の見解が誤りであること

以上より、最高裁判例は、前掲東京地裁八王子支部判決が判示したように、医師法21条の「異状」に「諸般の事情を考慮して死体に関し異常を認めた場合を含む」と判断していると見るべきであり、最高裁判例が外表の異状を認めた場合のみを医師法21条の届出義務の対象としているとして、本発信が述べる見解は明らかな誤りである。


第4 医療事故死は医師法21条の届出義務の対象となる

1 最高裁判例について

最高裁判例は、医療事故死が医師法21条の届出対象であることを前提とする。

最高裁判例は、医師法21条の届出につき、「死体を検案して異状を認めた医師は、自己がその死因等につき診療行為における業務上過失致死等の罪責を問われるおそれがある場合にも、本件届出義務を負うとすることは、憲法38条1項に違反するものではないと解するのが相当である。」と判示し、医療事故死が医師法21条の届出義務の対象となることを前提としている。


2 国会議員や医療界における検討内容について

立法を司る国会議員の検討においても、医療界においても、医療事故死が医師法21条の届出義務の対象となるとされている。

(1) 政府与党内ワーキングチームのとりまとめ

前掲「見直しについて」は、最高裁判例について「医師法第21条に関する論点の整理について」「(医療事故死) 平成16年の最高裁判決では…医療事故死を医師法第21条の対象とすることは、自己負罪拒否特権を保障した憲法第38条第1項に違反しないと判示」(3頁)、「既に医療事故死が医師法第21条の届出対象となるという判例が確立していることを踏まえると、このような状況を解決するためには、医師法第21条の改正という立法措置による必要がある。」、「今後、どのような立法措置が必要か検討を深めることが必要である」(4頁)と述べている。すなわち、最高裁判例上、医師法21条が医療事故死に適用されることを指摘している。

そして、「見直しについて」では、「全ての医療事故が業務上過失致死罪等の捜査対象となり得る状況」を解消するため、「医師法21条の見直し、医療行為と刑事責任との関係等について、更に検討を深めていく必要性について、意見の一致をみた」(2頁)ものの、「医師法第21条や医療事故調査制度についての見直しを行うとすれば、更なる議論が必要であり、推進法附則に定められた期限(2018年6月24日)までにその成果を得ることは困難である」との結論に至り(3頁)、以上の検討の結果、医師法21条の見直しはなされなかった。

このように、現状では、医療事故死は、医師法21条による届出と医療事故調査制度下での報告のどちらの場面でも対象になり得る。それゆえ、今後もその関係を整理し、立法措置も視野に入れた議論・検討がなされることとされたのである。

以上より、現状、医療事故死は医師法21条の届出対象である。

(2) 医療界の認識

医療界でも、医療事故死が医師法21条の届出対象とされている。

前掲「見直しについて」3頁では、医療界の実際として「医療事故死は医師法第21条の届出対象として運用されており」と述べている。

また、後述のとおり、2012(平成24)年10月26日「第8回医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」(以下「第8回検討部会」という。)において、厚労省医事課長は、医療事故死が医師法21条の届出義務の対象となることを説明している。さらに、日本医師会医事法関係検討委員会も前掲「医師法21条の規定の見直しについて」において、医療事故死が医師法21条の届出対象であることを前提とした同条改正案を提案している。

つまり、現状、医療事故死は医師法第21条の届出対象であることは、医療界における共通認識でもある。

(3) 小括

したがって、医療事故死が医師法21条の届出義務の対象となることは、国会議員の検討においても、医療界においても、共通認識とされている。


3 厚労省医事課長発言や厚生労働大臣答弁について

第8回検討部会の厚労省医事課長発言や厚生労働大臣答弁を根拠に、医療事故死を医師法21条届出から除外することはできない。

(1) 厚労省医事課長の発言

本発信は、第8回検討部会に出席した厚労省医事課長が「旧厚労省における国立病院リスクマネジメントマニュアル作成指針(医療事故死の警察への届出を指導している)は医師法21条の解釈を示したものではない」と「見解」を示した、この「見解」ゆえに医療事故死は医師法21条の届出対象から除外されている、とする。

しかし、第8回検討部会議事録を読めば、医事課長は別の発言箇所で、医療事故死が同条の届出対象であることを明言している。すなわち、中澤堅次委員が「医療関連死はこの関係(注:医師法21条)から省かれるという考えでよろしいのですね」と質問したのに対し、医事課長は「そういうことではなくて、いわゆる、ここでいろいろ議論されている医療関連死であっても、医師が死因を判断するために外表を見て、異状がある場合は警察に届け出なければならないということです」と回答している。

また、第8回検討部会では、次のとおり、最高裁判例についての山本座長と有賀構成員とのやりとりで、医療事故死が医師法21条の届出対象であることが確認されている。


○有賀構成員

先ほど法律の方たち、座長も含めて言われたのは、診療関連死は21条のこの解釈に含まれるという、それが、今、日本国のルールになっているのですね、要は。

○山本座長

最高裁判所がそのように言っていると。

○有賀構成員

最高裁判所が言ったということは、この国のルールとしてそれが所与の条件なのだということを前提に話をしなくてはいけないということですね。

○山本座長

それはそういうことになると思います。


したがって、第8回検討部会での厚労省医事課長の「見解」は、何ら医療事故死が医師法21条の届出対象から除外されることの根拠となるものではない。

(2) 厚生労働大臣答弁

また、本発信が、2014(平成26)年6月10日衆議院厚生労働委員会における田村厚生労働大臣の「医師法21条は医療事故等々を想定しているわけではなく、これは法律制定時より変わっていない」との発言を根拠とすることも、誤りである。

同委員会における田村厚生労働大臣の答弁と、大臣の答弁を受けた小池晃議員の発言を引用すると、次のとおりである。


○田村憲久厚生労働大臣

(中略)医師法第二十一条は、医療事故等々を想定しているわけではないわけでありまして、これは法律制定時より変わっておりません。

ただ、平成十六年四月十三日、これは最高裁の判決でありますが、都立広尾病院事件でございます。これにおいて、検案というものは医師法二十一条でどういうことかというと、医師が死因等を判定をするために外表を検査することであるということであるわけであります。一方で、これはまさに自分の患者であるかどうかということは問わないということでありますから、自分の患者であっても検案というような対象になるわけであります。さらに、医療事故調査制度に係る検討会、これ平成二十四年十月二十六日でありますけれども、出席者から質問があったため、我が省の担当課長からこのような話がありました。死体の外表を検査し、異状があると医師が判断した場合には、これは警察署長に届ける必要があると。

一連の整理をいたしますと、このような流れの話でございます。

○小池晃議員

これで医師法二十一条が何でも医療事故を届けるようなものでないということがきちっと確認されたと思います。私はきちんとこれは法改正もすべきだというふうに思います。


このように、厚生労働大臣は同発言に続けて、最高裁判例や第8回検討部会での厚労省医事課長の発言を紹介し、医療事故死が医師法21条の届出に含まれることを前提とした答弁をしている。他方、「医師法第二十一条は、医療事故等々を想定しているわけではないわけでありまして、これは法律制定時より変わっておりません。」という厚生労働大臣の発言は、これに続く発言をもあわせて読めば、異状死体にあたるかあたらないかに関わらず、医療事故のすべてを届けなければならないことを医師法21条が定めたものではないことを説明しようとしたものと理解される。

(3) 小括

以上より、本発信が、医療事故死が医師法21条の届出とならないとする見解を厚生労働省が示したかのごとき記述をしている点も、誤りである。


4 本発信の見解が誤りであること

以上述べたとおり、医療事故死が医師法21条の届出対象であるとした見解を厚生労働省が撤回しているから、医療事故死は医師法21条の届出対象から除外されているとする、本発信の見解は誤りである。


第5 医療安全に向けた要望

前記第2の2(3)のとおり、本発信は、現行の医療事故調査制度の下での医療事故報告も謙抑的にすべきとの考えを示していると考えられるが、医療界をこのような態度に誘導することは、医療界にとっても国民にとっても有益ではない。

2015(平成27)年10月から実施されている医療事故調査制度は、医療法上の医療安全の確保に位置づけられ、その目的は医療事故防止・医療安全にある。つまり、現行の医療事故調査制度は、医療事故死のうち法律が定めるものを医療事故調査・支援センターに報告し、院内調査を主体とした調査によって事故の原因を明らかにし再発防止策を策定し実践するものであって、これまでも一部で行われていた医療界と患者側双方の医療安全への努力を具体化した制度である。

また、本年4月13日、14日には、東京で第3回閣僚級世界患者安全サミットが開催された。同サミットでは、地域レベル、世界レベルでのリーダーシップにより2030年までに世界中の誰でもどこでも医療制度を利用する全ての患者と人々に対し、避けられる全ての有害事象やリスクを低減することを目指し、患者安全の向上のためのグローバルな行動を呼びかけた「東京宣言」がとりまとめられた。

以上からすれば、医療界には、医療事故調査制度の下で適切に医療事故の報告・調査を実施し、医療安全に努めることが求められている。医療事故調査制度下での報告に謙抑的であれとする本発信は、医療界と患者側双方の医療事故防止の努力、世界的な患者安全の実現に向けた取り組みに背を向けるものであり、我が国の医療安全の歴史に逆行するものである。

また、医療事故調査による医療安全確保を図りつつ、医師法21条の届出義務に対する医療界の懸念を払拭するためには、医療事故死につき医療事故調査制度下の報告がなされた場合には、医師法21条の届出があったものとみなし、同法違反に問われないようにする立法的措置も検討されなければならないと考える。この点も、医療界において真剣に議論されることを期待したい。

以上

※ 2018(平成30)年3月9日付一般社団法人全国医学部長病院長会議 大学病院の医療事故対策委員会作成の「病院に勤務する医師の皆様にご理解いただきたいこと」を意見書末尾に添付

   

ページトップへ↑