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プレスリリース

日付 :2005年5月25日

「司法解剖結果の開示」に関する意見書


【要 約】
医療関連死に関する司法解剖結果について、遺族と当該医療機関双方に対し、早期に開示されるよう、刑事訴訟法47条を改正するか、行政通知で指導することを、求めた。
平成17年5月

医療問題弁護団
(事務局)
東京都葛飾区西新小岩1-7-9
西新小岩ハイツ506
福地・野田法律事務所内
電 話 03(5698)8544
FAX 03(5698)7512
掲載ホームページ:http://www.iryo-bengo.com/

目  次

第1 意見の趣旨

第2 意見の理由

1 司法解剖結果を早期に開示することの意義

(1)遺族の被害救済の観点から必要
(2)医療関連死発生時の紛争予防・早期解決の点からも重要
 [1]意義
 [2]死因調査専門機関での解剖結果開示
(3)医療安全の点からも重要

2 患者の死亡原因解明の重要性や法的義務に関する判決例

3 司法解剖結果開示の現状と問題点

(1)遺族側への開示の現状
 [1] 現状における司法解剖結果開示の法制度
 [2] 運用による、不起訴確定時の司法解剖結果開示
 [3] 公判請求後
 [4] 不起訴処分ないし公判請求確定前
(2) 現状の問題点
 [1] 実例
 [2] 法医学教室のアンケート結果
 [3] 小活-実例における具体的な弊害

4 提言


第1 意見の趣旨

 医療関連死に関する司法解剖結果について、遺族と当該医療機関双方に対し、早期(遅くとも死亡から3カ月以内)に開示するよう、刑事訴訟法47条を「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、司法解剖結果の関係者への開示等公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合は、この限りでない」との文言に改正することにより、司法解剖結果が公判開廷前に開示できることを明文化すべきです。
 もし、上記改正が直ちに困難な場合は、起訴不起訴の処分確定にかかわらず、捜査段階における司法解剖結果の開示が、刑事訴訟法47条但書の「公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合」に該当することを、行政通知によって、指導すべきです。
 また、司法解剖結果が早期に作成されるよう、司法解剖制度を整備すべきです。

第2 意見の理由

1 司法解剖結果を早期に開示することの意義

(1) 遺族の被害救済の観点から必要

 [1] 意義

 患者が死亡した場合の医療事故・医療過誤(以下「医療関連死」といいます)が発生したとき、被害者たる遺族が希望することは、何よりも、患者に対する医療行為の全容や、患者の死亡原因等の、「事実を知る」ことです。
 よって、患者がどのような医学的機序で死亡したのかという死因解明が早期になされ、遺族側に結果が開示されることは、遺族の被害救済の第一歩という観点から、重要です。

 [2] 厚生労働省「診療情報の提供等に関する指針」

 この点、2003(平成15)年9月12日、厚生労働省医政局長発各都道府県知事宛通知「診療情報の提供等に関する指針」が発せられており、同指針において、遺族が、診療情報の開示対象者として明文で位置づけられ、遺族に対する診療情報開示の重要性が指摘されています。

(2) 医療関連死発生時の紛争予防・早期解決の点からも重要

 [1] 意義

 また、患者が死亡した場合の医療関連死においては、「患者がどのような原因・機序で死亡したか」を解明することが、当該ケースの医学的評価・法的判断の出発点です。 
 医療関連死で死亡原因・機序がわからない段階では、遺族側も医療機関側も、その診療過程におけるミス(過失)や死亡との因果関係を確定できず、双方の主張や推定が交錯するため、本来、紛争や訴訟が妥当しないケースでも、紛争化・訴訟化したり、紛争・訴訟が長期化することとなります。
 よって、医療関連死が発生し、司法解剖手続がとられた場合、当該事案の紛争化予防や紛争の長期化予防の観点からも、医療側と遺族側双方に対し、解剖による死因解明結果が、早期に開示されることが不可欠です。

 [2] 死因調査専門機関での解剖結果開示

 この点、既に報道されているように、医療関連19学会の声明を受け、厚生労働省が来年度から全国5地域でモデル事業を補足させる「死因調査専門機関(仮称)」は、各地域の医療機関が医療関連死について死因調査の希望を受け、解剖による死因調査を実施する事業です。
 この事業では、解剖直後に遺族へ交付する死体検案書に解剖結果の概括を記載した上で、遺族に説明し、その後、死因評価委員会により死因調査をまとめた時点で、遺族と当該医療機関へ、詳細な解剖結果を含めむ報告書面を交付し、患者の死亡日から3ヶ月程度をメドとして、死因調査結果を報告する、とのことです。
 このシステムによれば、遺族側は死亡直後に解剖結果概要を知ることができ、また遺族側医療機関側双方とも、遅くとも患者の死亡から3カ月後には解剖結果全容を知ることできるのです。

(3) 医療安全の点からも重要

 さらに、医療関連死において、死亡に至る医学的機序・原因が早期に解明されなければ、医療関連死の事故原因を分析することも遅れ、事故の再発防止策を検討したり、具体的な医療安全策の策定にもつながりません。
 現行医療法施行規則上、全ての有床診療所と病院に、院内の医療安全対策が求められています。
 よって、医療関連死が発生し、司法解剖手続がとられた場合、医療機関が当該事案に関連して求められる医療安全対策をよく実施遂行するためにも、医療側に対し、解剖による死因解明結果が、早期に開示されることが必要です。

2 患者の死亡原因解明の重要性や法的義務に関する判決例

 かような、医療関連死における死因解明の重要性は、医療過誤判例でも諸処に指摘されているところです。
 判例は、患者が死亡した場合、死亡に到った経緯・原因について、診療を通じて知り得た事実に基づき遺族に対し適切な説明を行うことが、診療債務に付随する、あるいは信義則上の法的義務であると判示し、医師の遺族への死因説明を、法的義務であると位置付けています(広島地裁平成4年12月21日判決(判例タイムズ814号202頁、別冊ジュリスト「医療過誤判例百選第二版」24頁)、東京高裁平成10年2月25日判決(判例時報1646号64頁))。
 遺族側からすれば、患者の死亡原因について知る権利を有していることになります(中村哲「医療訴訟の実務的課題-患者と医師のあるべき姿を求めて」判例タイムズ社123頁参照)。
 さらに、遺族に対する患者の死因説明義務からさらにすすんで、具体的な事情いかんによって、解剖という、死因解明に必要な措置を提案し、その実施を求めるかどうかを遺族に検討する機会を与え、遺族の求めがあれば適宜の方法で解剖を実施し、解剖結果に基づいて死因説明をするという、医師の遺族に対する、死亡原因の解明提案義務についても、否定できないとされています(前掲東京高裁平成10年2月25日判決(判例時報1646号64頁)、前掲「医療訴訟の実務的課題-患者と医師のあるべき姿を求めて」124頁参照)。
 ここでは、病理解剖についてではありますが、「一般に、解剖が、患者の死因解明のための最も直接的かつ有効な手段である」と判示され、医師が、死因解明にあたり解剖の提案をしてその実施を求めるかどうかを遺族に検討する機会を与えることが、具体的事情によっては法的義務と認められる、と指摘されています。
 かように、医療過誤判例上、患者死亡時における遺族に対する死因説明や解剖実施による死因解明提案について、法的義務性が指摘されていることに鑑みても、司法解剖結果が遺族側・医療機関側双方に早期に開示されることの重要性は、明らかです。

3 司法解剖結果開示の現状と問題点

(1)遺族側への開示の現状

 [1] 現状における司法解剖結果開示の法制度

 医療関連死が、告訴等の端緒により業務上過失致死事件として捜査対象となった場合、捜査機関の嘱託及び裁判所の鑑定処分許可により司法解剖が行われ(刑事訴訟法129条、168条)、解剖結果は、刑事訴訟法47条「訴訟に関する書類」に該当します。
 同条は、「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合は、この限りではない。」と定めており、医療関連死による業務上過失致死事件の第1回公判の開廷前には、司法解剖結果の報告を含む捜査関連書類は、原則として公にされません。
 ただし、同条但書により、訴訟に関する書類であっても、公益上の必要その他の事由があり相当性がある場合は、第1回公判開廷前にも、開示可能です。
 例えば、交通事故による業務上過失致死・致傷事件の実況見分調書等の書類については、従来から、刑事訴訟47条但書の適用事例であるとし、第1回公判開廷前にも被害者側にも開示する運用が行われてきました。
 よって、現行の刑事訴訟法47条の文言によっても、医療関連死の司法解剖結果について、但書を適用するという運用により、当該業務上過失致死事件が起訴され第1回の公判がひらかれる前の時点でも、開示は可能です。

 [2] 運用による、不起訴確定時の司法解剖結果開示

 この点、法務省刑事局は、交通事故事件以外の書類に関する上記刑訴法47条の運用につき、2000年(平成12年)2月4日付刑事局長通知「被害者等に対する不起訴記録の開示の取扱いについて」により、「被害者等が民事訴訟等において被害回復のため損害賠償請求権その他の権利を行使するために必要と認められる場合」には、「捜査・公判に支障を生じたり、関係者のプライバシーを侵害しない範囲内で、客観的証拠で、かつ、代替性がなく、その証拠なくしては立証が困難であるという事情が認められるもの」について、被害者側からの請求に対して、不起訴記録の開示を認めるという弾力的な運用を、不起訴記録の開示も刑事訴訟法47条但書に該当する旨、全国の検察庁へ指導しました。
 これにより、医療関連死での業務上過失致死事件における司法解剖結果についても、不起訴処分が確定した後は、遺族側に開示されるようになりました。

 [3] 公判請求後

 2000年(平成12年)6月に施行された犯罪被害者保護法でも、従来は公判記録の開示が刑事裁判確定後に限られていたことにより被害者の民事損害賠償請求の妨げになっていたことを是正するため、公判記録の閲覧・謄写を、刑事事件公判係属中にも認めました。
 これにより、医療関連死での業務上過失致死事件における司法解剖結果についても、公判請求後は、遺族側に開示されるようになりました。
 また、業務上過失事件の被告人となる医療従事者は、被告人の刑事訴訟法上の権利として、当該刑事裁判の書類である司法解剖結果の開示を受けることは勿論です。

 [4] 不起訴処分ないし公判請求確定前

 このように、医療関連死が、業務上過失致死事件として捜査対象となったときに、上記[2]の場面、当該業務上過失致死事件の不起訴処分が確定した場合には、刑事訴訟47条の運用により遺族側へ司法解剖結果が開示されますし、上記[3]の場面、当該業務上過失致死事件の公判請求が確定した場合も、犯罪被害者保護法もしくは刑事訴訟法により、遺族側は司法解剖結果が開示されます。
 しかし、[2][3]の間隙である、「不起訴処分となるか公判請求となるかが確定しない期間」(以下「捜査段階」といいます)において、法制度も運用上も、遺族側が司法解剖結果を知り得ない状況にあります。なお、この捜査段階は医療過誤事案の場合、専門性の高い分野であることから、長期間に及んでいるのが実情です。
 その結果、以下「(2)現状の問題点」に述べるような重大な弊害が、全国的に生じています。
 本来は、前記「1 司法解剖結果を早期に開示することの意義」で述べたように、医療関連死で司法解剖がなされた場合、早期の段階で、遺族側にも医療機関側にも、解剖結果が開示されなけばならないのです。

(2) 現状の問題点

 [1] 実例

 別表1は、ここ数年で、医療関連死での業務上過失致死事件として捜査の対象になった事件のうち、上記「(1)遺族側への開示の現状」で述べたとおり、捜査段階において司法解剖結果が開示されないために、民事手続がストップしてしまい、徒に被害救済が遅れ、紛争が長期化し、しかも医療安全策も遅れているという、実状と問題点の一端を紹介するものです。

イ、司法解剖結果報告に時間がかかりすぎる

 まず、解剖結果の報告が作成されるまでの期間が長期化しています。
 例えば別表1の⑥事件では、死亡事故日から2年5カ月たっても正式な解剖報告書が作成されていません。また[4]事件では、死亡事故日から解剖報告書作成まで1年1カ月もかかっています。さらに、[5][7]各事件は、2年以上経過しても解剖結果が開示されないために、作成期間が遺族側に不明です。
 かように、解剖結果が作成されるまでに長期を要している原因の一端は、司法解剖制度の整備が遅れている現状にあると思われます。本年3月16日、日本法医学会は、司法解剖件数の増加傾向に比して法医学教室の予算や人員が削減される現状を指摘し、早晩、法医学教室が機能不全に陥ることを危惧する旨の提言(http://web.sapmed.ac.jp/JSLM/170316.html)をしました。
 このような現状を改善し、遅くとも医療関連死から3ヶ月以内には、解剖結果報告が作成されなければならない、と考えます。

ロ、警察・検察が「捜査中」を理由に開示しない

 このような、解剖結果に時間がかかりすぎるという問題点に加え、解剖結果作成後においても、現行の運用では、前記のとおり、捜査段階には、遺族側にも当該医療機関側にも、捜査機関から解剖結果が開示されません。
 別表1の[2][4][5]各事件では、いずれも、民事医療訴訟の文書送付・調査嘱託がなされたのに対し、警察・検察が「捜査中」を理由に回答を拒否しました。

 [2] 法医学教室のアンケート結果

 別表2は、首都圏で司法解剖を行う法医学教室に対し、2004年(平成16年)中の医療関連死の解剖実績や解剖報告書の作成期間、遺族へどのように開示しているか、をアンケートした回答例です。
 この回答結果によれば、解剖結果報告書の作成期間も、遺族側への開示方法も、実態は各法医学教室により対応がまちまちで、遺族側の混乱を招いています。
 遺族側が証拠保全で取得した医療記録中に解剖報告書が存在したという別表1の[1]事件のように、法医学教室が医療機関側にのみ書面開示していた事例もあります。
 かような混乱について、ある法医学教室(別表2「F」)は「司法解剖の情報開示がシステム化されない限り、本当の解決にはならない」と回答しています。
 つまり、司法解剖を行う法医学教室も、捜査段階には司法解剖結果を開示しないことが、被害者救済、紛争解決、医療安全策実施の妨げとなっている現状を改善すべきとの認識であることが伺われます。

 [3] 小活-実例における具体的な弊害

 かように、現在、捜査段階において、長期にわたり、司法解剖結果が開示されないために、第1に被害者救済が妨げられ、第2に紛争が長期化し、第3に医療機関側にとっても再発防止策策定による医療安全策の遂行が妨げられているのです。
 とりわけ、医療関連死での業務上過失致死事件の遺族は、当該医療関連死が刑事手続捜査対象とされることによって、かえって、民事解決の被害者救済を妨げられているのであり、これは自家撞着といえます。
 例えば、別表1の[8]事件では、そもそも当該医療機関の法的責任の有無を検討する調査段階で事件の進行が中断しています。また[2][4][5]各事件では、医療過誤民事訴訟の審理が中断しています。
 これらはいずれも、司法解剖結果が、捜査段階において、しかも長期にわたり、遺族側にも医療機関側にも開示されないために生じる問題点なのです。 

4 提言

 そこで、本意見書では、以上述べてきたような、医療関連死での業務上過失致死事件における司法解剖結果の早期開示がなされない現状を改善すべく、第1に、刑事訴訟法47条を、「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、司法解剖結果の関係者への開示等公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合は、この限りでない」との文言に改正することを提言します。
 第2に、もし、上記改正が直ちに困難な場合は、司法解剖結果の開示は、刑事訴訟法47条但書の「公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合」に該当することを、行政通知によって、指導すべきことを提言します。
 前掲平成12年2月4日付刑事局長通知「被害者等に対する不起訴記録の開示の取扱いについて」でも、医療関連死での業務上過失致死事件における司法解剖結果を開示することが、被害者等である遺族側が被害回復のため民事訴訟で損害賠償請求権を行使するために必要としています。しかも、司法解剖結果を関係者に開示したところで、捜査・公判には何ら支障を生じることもなく、プライバシー侵害の問題も生じず、さらに、司法解剖結果は極めて客観的証拠であり、代替性もなく、司法解剖結果なくして医療関連死の死亡原因を確定することも困難です。このような理由で、同通知の定立する弾力的な運用要件に合致するとして、司法解剖結果を、不起訴確定時には開示することを指導しているのです。このような事情は、捜査段階でも同様です。
 第3に、司法解剖結果が早期に作成されるよう、法医学教室における人員・設備等の整備をすすめるべきです。
 なお、行政解剖結果の開示についても、司法解剖同様、遺族側と医療機関側双方に対し、早期に開示されるべきこと、司法解剖結果に同じです。
以上


別表1:司法解剖報告書の遅れ、不開示による弊害ケースの紹介
別表2:法医学教室への医療関連死の司法解剖調査


      医療問題弁護団政策班

  鈴 木  利 廣 ,◎ 大 森  夏 織 

  宮 城    朗 ,  五十嵐  裕 美

  伊 藤  律 子 ,  髙 井  章 光

  中 島  ゆかり ,  木 下  正一郎

○ 中 川  素 充 ,○ 藤 田    裕


  * ○印は本意見書起案担当者
      ◎印は責任者
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