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日付 :2003年6月20日

公務員専門家の司法関与に関する意見書


【要 約】
公務員専門家が積極的に司法関与できるよう、行政当局による職務 専念義務の緩和、最高裁判所による司法関与容易の働きかけ、関与の報酬基準明確化、事前届出・事後報告制度の整備、等を内容とする、要綱の策定を求めた。
2003年(平成15年)6月20日


~ 医療過誤訴訟を中心に ~


(弁護団事務局連絡先)
東京都葛飾区西小岩1-7-9 西新小岩ハイツ506


意 見 の 趣 旨

1 公務員専門家が積極的に司法関与できるよう、ルール(要綱)を策定すべきです。
2 要綱では、①行政当局において、公務員専門家が司法関与できるよう職務専念義務を緩和し、また、②最高裁判所において、行政当局に、公務員専門家の司法関与を容易にするよう働きかけるとともに、司法関与に関する報酬基準を明確化すべきです。さらには、③事前届出・事後報告制度を定めることで、司法関与を促進すべきです。

意 見 の 理 由
(目次)
序 はじめに
第1 問題の所在
1 民事訴訟における公務員専門家の司法関与
2 司法関与と公務員の職務専念義務の関係
3 医療過誤訴訟における公務員専門家関与の意義
(1)医師の司法関与が不可欠であること
(2)協力医の存在が不可欠であること
(3)東京地方裁判所医療集中部の訴訟運営
(4)公務員たる医師の必要性
第2 司法関与と公務員法上の取扱いの現状
1 問題点① ― 勤務時間中の司法関与の可否
2 問題点② ― 報酬受領の可否
3 問題点③ ― 所属機関に対する届出の要否
4 法律解釈が不明確であることによる萎縮効果
(1)訴訟当事者の訴訟追行の困難性
(2)医療集中部の想定する審理実現の困難性
(3)鑑定人の確保の困難性
第3 当弁護団の意見
1 ルール(要綱)策定の必要性
2 公務員専門家の司法関与に関する要綱骨子
(1)積極的司法関与の必要性 - 職務専念義務の緩和
(2)報酬基準の明確化と取扱い
(3)事前届出・事後報告制度
【関連・参照条文等】

序 はじめに
医療問題弁護団は、東京を中心として活動する、患者側で医療事故相談・医事紛争を扱う弁護士グループです。現在、約200名の弁護士が当弁護団のメンバーとなっています。当弁護団は、昨年1年間だけでも約300件の医療法律相談を受けており、東京を中心とする地域の医療事故紛争・医療過誤訴訟への対応、医療被害の救済に深く関わっています。
医療過誤訴訟は、医学の専門的知見を必要とする訴訟であり、訴訟運営・追行には、医学の専門家たる医師の関与・協力が不可欠です。そして、国立大学附属病院、国立病院・療養所(以下「国立大学等」といいます。)には多くの医師が勤務しており、国立大学等の医師は、医学の研究・臨床において高い知識と見識を有し、医療界において指導的な役割を果たしています。したがって、医療過誤訴訟においても、鑑定人または専門家証人として、一定の役割を果たすことが期待されていると考えられます。
しかしながら、現状では、国立大学等の医師をはじめとする、公務員たる地位を有する専門家(特定の分野について専門的知見を有する者。以下「公務員専門家」といいます。)の司法関与について、必ずしも積極的ではありません。その背景には、現行法上明確な定めがないことが影響しているものと考えられます。
本意見書では、公務員専門家の司法関与について、専門的知見を必要とする民事訴訟、主に医療過誤訴訟を中心として、意見を述べるものです。

第1 問題の所在
1 民事訴訟における公務員専門家の司法関与
専門的な知見を必要とする民事訴訟において、専門家が司法に関与する場面としては、以下のとおりの制度があります。
① 鑑定人(民訴法213条)
鑑定は、裁判官の判断能力を補充するために、学識のある第三者にその専門的知見や意見を報告させる証拠調べのことです。鑑定に必要な学識経験を有するものは、鑑定義務を負い(民訴212条1項)、公法上の出頭義務、宣誓義務および鑑定意見報告義務が認められます(上田徹一郎「民事訴訟法」388頁)。
鑑定意見の報告は、書面(鑑定書)による場合と、口頭(鑑定人尋問)による場合があります(民訴法215条)。
② 証人・鑑定証人(民訴法217条)
証人は、過去に知った事実を法廷で報告することを命じられた第三者のことをいいます。専門の学識経験により知りえた過去の事実を供述する「鑑定証人」も証人に属します。わが国の裁判権に服する者はすべて、公法上の証人義務、すなわち出頭義務、宣誓義務および供述義務を負うものとされています(民訴法190条、上田徹一郎「民事訴訟法」383頁)。
③ 書証(意見書・私的鑑定書、民訴法231条)
書証は、文書に記載された特定人の意思や認識などの意見内容を証拠資料とする証拠調べです。
実務においては、専門家がその専門的知識や意見を記載した「意見書」「私的鑑定書」を作成し、これを訴訟当事者が書証として提出することも期待されています。
以上のうち、鑑定人および証人(鑑定証人を含む)には、公法上の義務として鑑定義務、証人義務がありますが、公務員であっても、これらの義務を免れないことは、いうまでもありません。ただし、例外として、公務員等が職務上の秘密について尋問される場合には、監督官庁等の所定機関の承認を必要とされています(民訴384条、国家公務員法100条2項および3項)。

2 司法関与と公務員の職務専念義務の関係
国家公務員法には、国家公務員が司法関与する場合の規定として、前記国家公務員法100条(秘密を守る義務)が定められているだけです。
国家公務員は、その勤務時間中、職務専念義務があり(国家公務員法101条)、同条では「法律又は命令の定める場合」には職務専念義務が免除されるものとされています。しかし、国家公務員が司法関与する場合、職務専念義務が免除されるか否かについて定めた明文の規定は、存在しません。
したがって、公務員専門家が司法に関与する場合、鑑定義務および証人義務と公務員の職務専念義務とがどのような関係にあるのか、法律上必ずしも明らかではありません。

3 医療過誤訴訟における公務員専門家関与の意義
(1)医師の司法関与が不可欠であること
医療過誤訴訟は、医学の専門的知見を前提に、医師・医療機関の法的責任について判断します。したがって、医療過誤訴訟の審理には、医学の専門的知見が不可欠であり、専門的知見を確保するためには、医学の専門家である医師の何らかの関与が必要とされることはいうまでもありません。
医療過誤訴訟は、近時増加する傾向にあり、合理的な期間で適正な解決を図ることが、訴訟当事者からだけでなく、社会的にも求められています。平成11年7月に内閣に設置された司法制度改革審議会における平成12年11月20日の中間報告および平成13年6月12日の最終意見書においても、医療過誤訴訟等の専門的知見を要する事件への対応強化が掲げられています。合理的な期間内に充実した医療過誤訴訟の審理を行なうことは、医師の助言や協力を得なければ、実現できません。今後、医療過誤訴訟における医師の必要性は、益々高まっていくものと思われます。
平成13年4月、東京および大阪に医療集中部が発足したことを契機に、名古屋、千葉、福岡の各地方裁判所に集中部が設置されました。また、その他の各地方裁判所においても、医療過誤訴訟の審理・運営について、医事訴訟連絡協議会や医療機関向けのガイダンス等が進められています(平成15年1月末日現在、ガイダンスは21地裁、連絡協議会は22地裁において、開催済みまたは開始予定です。)。連絡協議会やガイダンスにおいて、鑑定人の確保は、大きなテーマの1つとなっています。

(2)協力医の存在が不可欠であること
医学の専門家たる医師を必要としているのは、裁判所だけではありません。医療過誤訴訟を追行するためには、訴訟代理人となる弁護士も、医師の助言・協力を得ることが不可欠です。
現行の民事訴訟法下においては、当事者主義が採られており、訴訟の審理過程では、資料の収集に関して当事者が支配権を持っています。つまり、「事案解明責任は当事者にあり、争点の確定、証拠の提出も当事者の責務」です。そして、「専門訴訟における訴訟運営上の改善に当たっては、まず第一に、訴訟代理人となる弁護士の役割の重要性が強調されなければならず、訴訟代理人たる弁護士が、率先して専門的知識を身につけ、それを基に効率的な争点整理と証拠調べを行うことが重要である。このような当事者主義の尊重及び徹底によって、弁護士が迅速かつ適正な裁判の実現に主体的に貢献すべきであると考える」とされています(司法研修所編「専門的な知見を必要とする民事訴訟の運営」51~52頁)。
当然のことですが、弁護士は、医学教育を受けている訳ではなく、医学の専門的知識を有していません。迅速かつ適正な裁判の実現に向けて、弁護士が訴訟追行に必要となる医学知識を身につけるためには、医師の助言・協力が必要です。このように当事者に助言・協力する医師は「協力医」と呼ばれています。

*協力医の助言・協力の形態
具体的には、協力医は、診療記録を検討し、当該医療行為の医学的な問題点について、専門家としての意見を述べます。また、裁判所に書証として提出する意見書・私的鑑定書を作成したり、証人として裁判に出頭し、法廷において医学の専門的知見を証言します。
なお、医師の助言・協力を得たときには、医師に、謝礼(いわゆる車代ではなく、意見書・私的鑑定書作成料といった報酬の性質を持つ金員)を支払うことが一般的です。診療記録の検討のために一定の時間・労力を割いてもらい、高度な専門的知見の提供を受ける以上、その対価として謝礼を支払うのは当然のことであると思料します。

(3)東京地方裁判所医療集中部の訴訟運営
東京地方裁判所医療集中部の裁判官は、「当事者が的確に、かつ早期に自らの主張を準備するためには、やはり専門家の援助を受けることが不可欠と考えます」(判タ1053号「医療訴訟の運営をめぐる懇談会」11頁中段・前田順司判事の発言)と述べ、訴訟代理人である弁護士が協力医に相談することを、当然の前提としています。
また、東京三会の医療問題研修会では、「相談医の私的鑑定書・意見書」の提出や「私的鑑定書や意見書を書いた医師」の尋問を前提とした訴訟運営について言及されています(2001年11月3日東京三会法律相談センター主催医療問題研修会における福田剛久判事講演)。
さらに、「従前の医療訴訟が鑑定人に全面的に依存していた現状を改め、鑑定の必要性を吟味し、たとえば、当事者双方から医師の意見書が提出され、原告側、被告側それぞれの意見を証言する医師の各証人の尋問がなされた場合など、鑑定を必要としないと判断される場合は鑑定をしないことがある」との裁判官の発言もあります(東京弁護士会LIBLA2002年11月号4頁、東京地方裁判所民事14部山名学判事(当時)発言)。
現に、当弁護団が扱っている医療過誤訴訟のうち、医療集中部に係属している事件については、通常の医学文献が一般論を扱っているのに対し、患者側から提出される私的鑑定書は、その事件特有の意見が書かれているものであるため、重要視されているものと見受けられます。私的鑑定書によって患者側当事者の主張を裏付けることができることはもとより、仮に、私的鑑定書に対し医師側当事者から反論が出た場合でも、争点が明確になるという点で大きな意味を持つと考えられます。
さらに、私的鑑定書の作成者である医師と被告担当医の双方を証人尋問するケースもあります。この場合、東京地方裁判所医療集中部においては、各医師に通常の形式による尋問(主尋問・反対尋問・補充尋問)を行なうだけでなく、対質尋問(複数の人証を法廷に同席させて行なう尋問)によって、両医師双方を同時に裁判官が質問することで、争点についての見解の相違が明らかになるという手法がとられるケースも珍しくありません。この手法は、専門家同士が同時に尋問に立ち会うことによって初めて実現するものであり、協力医の存在が不可欠となります。

(4)公務員たる医師の必要性
以上のとおり、医療過誤訴訟では、医学の専門家たる医師が司法関与することが重要です。もっとも、医師であれば誰でもよいという訳ではありません。医師・医療機関の法的責任について適正な審理をするためには、十分な臨床経験に基づく相当の知識と見識を有する医師から、専門的知識・意見の提供を受ける必要があります。
その意味では、医学について研究と臨床を兼ね、医療界で指導的役割をも果たしている国立大学等に所属する医師から、専門的知識の提供を受け、専門的意見を聞くことは、裁判所にとっても当事者にとっても、最も有効かつ確実な資料収集方法の1つであると考えられます。

第2 司法関与と公務員法上の取扱いの現状
国立大学等の医師は、国家公務員です。国家公務員の服務に関する規制に違反するような方法で、司法関与することは許されません。
しかし、第1、2に前述したとおり、国家公務員が司法関与する場合のルール、とりわけ、公務員専門家が、その専門的知識および意見を提供するために司法に関与する場合(訴訟当事者に助言・協力する場合を含む。)のルールは、明確になっていません。
特に問題になるのは、①勤務時間中の司法関与の可否、②司法関与の対価(報酬)受領の可否、③監督官庁等の所属機関への届出の要否です。

1 問題点① ― 勤務時間中の司法関与の可否
公務員専門家が、勤務時間中に司法関与することは、国家公務員の職務専念義務(国家公務員法101条)に抵触するのか。
第1、2に前述したとおり、国家公務員には、その勤務時間中は職務専念義務があり(国家公務員法101条)、同条では「法律又は命令の定める場合」には職務専念義務が免除されるものとされています。しかし、国家公務員が司法関与する場合に、職務専念義務が免除されるか否かについて定めた明文の規定は、存在しません。
民事訴訟の開廷時間は、原則として、平日の午前10時から午後5時までの時間帯です。したがって、国立大学等の医師が鑑定人または証人として裁判所に出頭する場合、勤務時間中になることは明らかです。この場合、国立大学等の医師は、必ず特別休暇(一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律19条、人事院規則15-14第22条2号)を取得する必要があるのでしょうか。
また、国立大学等の医師が鑑定書や意見書・私的鑑定書の作成を依頼された場合、勤務時間中に医学文献を調査したり、書面を作成したりすることは、職務専念義務に抵触するのでしょうか。当該医師が研究職にあり、医療事故や医療訴訟について研究している場合や、鑑定書等の作成を通じて医療訴訟に関与することが研究・医学教育や臨床に役立つ場合であっても、職務専念義務に抵触することになるのでしょうか。
民事訴訟法上は、公法上の義務として鑑定義務、証人義務が定められていますが、これらの義務と国家公務員の職務専念義務とはどのような関係にあるのか、明文の定めがなく、不明といわざるを得ません。
なお、鑑定書作成行為については、平成14年12月27日付厚生労働省通知「裁判所の鑑定人について」(以下「厚労省通知」といいます。)によれば、鑑定依頼を受ける場合には、勤務時間外に行うべきであることが明確化されています。厚労省通知においても、職務専念義務との関係は明らかではありませんが、これに従う限り、裁判所選任の鑑定人であっても、勤務時間中に医学文献を調査したり、書面を作成したりすることはできないことになります。裁判所選任の鑑定人ですら、勤務時間中に鑑定書作成行為が行えないとなれば、意見書・私的鑑定書について、勤務時間中に作成することは、当然、さらに否定的になるものと考えられます。
以上からすると、公務員専門家の勤務時間中の司法関与は、ほとんど認められないことになります。

2 問題点② ― 報酬受領の可否
公務員専門家が司法関与し、その対価(報酬)を受けることは、兼業の禁止(国家公務員法104条)に抵触するのか。
国家公務員法104条は、「職員が報酬を得て(中略)その他いかなる事業に従事し、若しくは事務を行うにも(中略)その職員の所属庁の長の許可を要する」と定めています。本条の「事業に従事し、若しくは事務を行う」とは、「職員が職務以外の事業又は事務に継続的又は定期的に従事する場合をいうもの」とされています。また「報酬」とは、「労務、仕事の完成、事務処理の対価として支払われる金銭その他の有価物をいい、対価でない謝礼や実費弁償は含まれない」とされています(注解法律学全集5「国家公務員法・地方公務員法」272頁・青林書院・1997年)。
訴訟当事者が協力医に対して支払う謝礼は、意見書・私的鑑定書の作成を依頼して、証人として法廷に出頭してもらった場合、30万円から50万円程度であることが多いようです。ちなみに、裁判所鑑定の費用は、通常50万円程度ですが、医師によっては100万円程度の費用を請求する例もあるといいます。
この程度の金額になると、労務、仕事の完成、事務処理の対価として支払われる金銭と評価できるので、「報酬」に該当するといえるでしょう。しかし、医師が鑑定したり、訴訟当事者に対し助言・協力することは、通常、継続的又は定期的ではなく単発的であることから、「事業に従事し、若しくは事務を行う」ことには該当しないと考えられます。したがって、国立大学等の医師に謝礼を支払うことは、国家公務員法104条に抵触しないと考えられます。
しかし、公務員関係判例研究会(代表世話人秋山昭八)編「新公務員労働の理論と実務Ⅲ―官庁綱紀を巡る諸問題―」(三協法規出版・1998年)には、以下のような記述があります。
C その点は、104条の許可についても同様で、一応、「職員の兼業の許可に関する総理府令」(347頁)がありますが、やはり抽象的ですね。
K 話を戻すようですが、公務員の講演料ないし謝金については、報酬ではあるけれども、継続性とか反復性がないので、事業又は事務に該当しないとするのか、それとも、労務との対価性がないので、報酬自体に当たらないと考えたらよいのか、両方なのか、いかがでしょうか。
F 事例9にいう講演料とか謝金については、その金額が多いと、むしろ報酬と認定されるのかなという気がするのですね。ですから、2時間も3時間もしゃべって、その謝金が1万円とか2万円とかいう程度の金額であれば、やはりこれはお礼という意味のお金で、対価性がないだろうと思うのです。ただ、それならどれくらいの金額になったら報酬になるのだと聞かれると、答えに困るのですけれども。(247頁)

B いずれにしても、講演料や謝金については、一部の例を除いて、一般職の公務員の場合に問題になることは少なく、やはり大学の教授や国立病院の医師あたりが一番問題で、どちらが本業か分からず、副業の収入のほうが多いという人もいるくらいですからね。大学の先生で、大学にいるよりテレビに出ている時間のほうが長いとなると、問題でしょう。(248頁)
上記記述によると、継続性・反復性がないことから「事業又は事務」に該当しないときでも、謝礼が「報酬」に該当するときには、国家公務員の行為として問題があると評価される場合もあるとも考えられ、国家公務員法104条の解釈は、必ずしも明確ではありません。
また、医師の訴訟当事者に対する助言・協力は、通常、単発的ですが、複数の弁護士からそれぞれ医療過誤訴訟に対する助言・協力を求められ、複数回に亘り意見書・私的鑑定書を作成する等の協力を行なう場合もあると考えられます。この場合、何回程度協力すると、継続性・反復性があると評価され、「事業又は事務」に該当すると判断されるのか、その基準も曖昧です。
このように、国家公務員法104条の解釈が必ずしも明確になっていないため、国立大学等の医師が謝礼を受領することに、現行法上全く問題がないとは言い切れません。

3 問題点③ ― 所属機関に対する届出の要否
公務員専門家が司法関与した対価(費用、手数料、報酬)を受けたときに、国家公務員倫理法・国家公務員規程による届け出が必要か。
国家公務員倫理法(以下「倫理法」という。)6条1項は、「本省課長補佐級以上の職員は、事業者等から、金銭、物品その他の財産上の利益の供与若しくは供応接待(以下「贈与等」という。)を受けたとき(中略)は、(中略)次に掲げる事項を記載した贈与等報告書を、(中略)各省各庁の長等(中略)に提出しなければならない。」と定めています。
弁護士は、「事業を行う個人」ですから「事業者等」に該当し(倫理法2条5項)、国立大学等の医師が弁護士から謝礼金を受領したときには、(当該医師の地位如何によっては)上記倫理法の規制を受けるものと思われます。
国家公務員倫理規程(以下「倫理規程」という。)8条1項は、「法第6条第1項での国家公務員倫理規程で定める報酬は、次の各号のいずれかに該当する報酬とする。」として、2号に「利害関係者に該当しない事業者等から支払を受けた講演等の報酬のうち、職員の現在又は過去の職務に関係する事項に関する講演等であって職員が行うものであることを明らかにして行うものの報酬」と定めています。同号の「講演等」とは、倫理規程6条1項において、「講演、討論、講習若しくは研修における指導若しくは知識の教授、著述(以下略)」と定義されています。
また、国家公務員倫理審査会のホームページにある倫理規程事例集(平成14年改訂版)問182では、「裁判の際に、医学上の鑑定書や法制上の意見書の作成を依頼され、それに対し報酬を受領した場合」は、「講演等に該当しないので、報告の必要はない」とされています。
しかし、国立大学等の医師が、意見書・私的鑑定書を作成したり、訴訟当事者に対し口頭で専門的意見を述べたりすることが「講演等」に該当するのか、倫理規程事例集問182にいう「医学上の鑑定書」「法制上の意見書」に訴訟当事者から依頼された意見書・私的鑑定書も含まれるのかについては、法文にも倫理規程事例集にも定めがありません。
もっとも、意見書・私的鑑定書の作成等は、「研修における指導若しくは知識の教授」「著述」(倫理規程6条1項)に準ずるとも思われ、このように解釈すれば、対価として謝礼の支払いを受けたときには、贈与等報告書の提出義務があることになります。
しかし、倫理規程6条1項の趣旨は、「人的役務の提供に藉口し、社会通念を超えるような報酬を支払われる等のおそれ」を防ぐことにあります(国家公務員倫理審査会事務局編「国家公務員倫理規程解説と質疑応答集」54頁)。弁護士に助言・協力して謝礼の支払いを受ける場合、社会通念を超えるような報酬を支払われる等のおそれがあるとは考えられず、倫理規程事例集の問182「裁判の際に、医学上の鑑定書や法制上の意見書の作成」に準じて扱い、「講演等」には該当せず贈与等報告の必要はないとも考えられます。
このように倫理法・倫理規程の解釈が曖昧であるため、公務員専門家が訴訟当事者から謝礼金の支払いを受けたときに、贈与等報告書の提出義務があるかどうかも不明確です。
この点、前記厚労省通知においては、裁判所依頼の鑑定人の場合、国家公務員倫理法に基づく報告は必要ないことが明確化されています。そして、上記のように、弁護士に助言・協力して謝礼の支払いを受ける場合であっても、社会通念を超えるような報酬を支払われるおそれがあるとは考えがたいこと、意見書・私的鑑定も司法関与の一環であることからすれば、裁判所依頼の鑑定人のみならず、弁護士が依頼して意見書・私的鑑定書の作成を行う場合であっても、特に区別する理由はなく、同様に扱うべきであり、更なる明確化が望まれます。

4 法律解釈が不明確であることによる萎縮効果
以上のとおり、公務員専門家が司法関与する場合(訴訟当事者に助言・協力をする場合を含む。)のルールについては、法律上きわめて曖昧です。
そのため、訴訟当事者に専門的知識・意見を提供して謝礼金を受領することは、国家公務員として「何となく後ろめたいこと」「何となくやましいこと」と受け止められかねません。これが心理的圧力として影響を与え、結果的に、訴訟当事者から医療事故紛争・医療過誤訴訟への助言・協力を求められたときに、国立大学等の医師は、助言・協力を躊躇し、拒否する傾向にあることは否定できません。
しかし、国立大学等の医師が医療過誤訴訟に助言・協力しないことには、以下の問題があると考えられます。

(1)訴訟当事者の訴訟追行の困難性
第1、3(2)で前述したとおり、 民事訴訟では当事者主義が採られており、訴訟の審理過程において、資料の収集に関しては当事者が支配権を持っています。国立大学等の医師の医療過誤訴訟に対する協力が消極的になれば、資料の収集は一層困難になり、その結果、訴訟当事者は、訴訟の追行が困難になることは明らかであり、このことは民事訴訟の当事者主義の根幹をも揺るがしかねません。

(2)医療集中部の想定する審理実現の困難性
第1、3(1)および(3)に前述したように、東京、大阪をはじめとする各地方裁判所においては医療集中部が設けられ、専門的分野である医療事件の適正な判断を確保しようと努力が重ねられています。医療集中部においては、患者側にも協力医が存在することを前提とした手続を積極的に採用しています。仮に、国立大学等の医師の協力が得られなければ、医療集中部の想定する医療訴訟審理改革の推進が困難となることは、明らかです。
これは、専門的知見を要する事件への対応を強化し、民事裁判の充実・迅速化を目指す司法改革の理念(平成13年6月12日「司法改革制度審議会意見書」17頁以下参照)にも反するものです。

(3)鑑定人の確保の困難性
当事者主義のもと、医療過誤訴訟において医師の存在が不可欠なことは、第1、3で述べたとおりです。裁判所選任の鑑定人が必要となる事案も、現に少なからず存在しています。
職務専念義務のために、国立大学等の医師が裁判所からの鑑定依頼を受諾し難い事態も、現に存します。また、前記厚労省通知に従って、公務員専門家が裁判所の鑑定人になった場合であっても、鑑定人としての活動が行なえる時間も限られています。このような背景の中で、民事訴訟において、医学界で指導的役割を果たしているはずの国立大学等の医師の専門的意見が得難い事態が進行しているのです。

第3 当弁護団の意見
1 ルール(要綱)策定の必要性
以上述べてきたように、ルールが不明確なために、公務員専門家の司法関与が得られ難くなっているのが現状です。したがって、行政当局や最高裁判所には、公務員専門家の司法関与についてのルール(要綱)を策定するための努力が求められています。

2 公務員専門家の司法関与に関する要綱骨子
上記要綱においては、少なくとも以下のことを定めるべきです。
(1)積極的司法関与の必要性 - 職務専念義務の緩和
公務員専門家が司法関与する際には、職務専念義務を例外的に免除し、勤務時間中であっても、鑑定人・証人として裁判所に出頭し、鑑定書・意見書・私的鑑定書の作成できることを明確にすべきです。
たとえば、研究公務員の学会・研究会参加については、研究交流促進法5条において、勤務時間中であっても一定の要件のもとに科学技術に関する研究集会への参加を認め、職務専念義務を免除しています。公務員専門家の司法関与についても、このような規定を明文で設けるべきです。
「全体の奉仕者」(憲法15条)たる国家公務員が率先して司法に積極的に関与・協力できる枠組みを作ることが肝要です。

(2)報酬基準の明確化と取扱い
国家公務員法104条の解釈が明確でないため、特に、私的鑑定の場合、国立大学等の医師が謝礼を受領することに全く問題がないとは言い切れない状況にあります。したがって、公務員専門家が司法関与した対価を受領することが適法であることを明確にする必要があります。
現状では、裁判所の鑑定費用(鑑定人の報酬)の基準も存在せず、訴訟当事者は、鑑定人の申出に基づく、裁判所の指示のままに支払っています。公務員専門家に対する報酬金額の透明化を図るためにも、報酬基準を定めるべきです。

(3)事前届出・事後報告制度
裁判所選任の鑑定人であっても、訴訟当事者が依頼する私的鑑定人であっても、司法に積極的に関与するという意味では同様ですから、裁判所の鑑定と同じく、贈与等報告書の対象にならないことを明らかにすべきです。
もっとも、勤務時間中に公務員専門家が司法関与することを認める以上、職務専念義務を免除することを明確にするため、所属機関に対する何らかの届出・報告制度は必要と考えられます。したがって、倫理法および倫理規程に定められた贈与等報告書の制度とは別途、司法関与に関する事前届出・事後報告制度を設けるべきです。
届出・報告により、公務員専門家の司法関与が透明性を持ち、公務員専門家がより積極的に司法関与できる環境が整うものと考えます。
以上

【関連・参照条文等】

国家公務員法
(秘密を守る義務)
第100条 職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。
2  法令による証人、鑑定人等となり、職務上の秘密に属する事項を発表するには、所轄庁の長(退職者については、その退職した官職又はこれに相当する官職の所轄庁の庁)の許可を要する。
3  前項の許可は、法律又は政令の定める条件および手続きに係る場合を除いては、これを拒むことができない。
4 (略)

(職務に専念する義務)
第101条 職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間および職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、官職を兼ねてはならない。職員は、官職を兼ねる場合においても、それに対した給与を受けてはならない。
2 前項の規定は、地震、火災、水害その他重大な災害に際し、当該官庁が職員を本職以外の業務に従事させることを妨げない。

(他の事業又は事務の関与制限)
第104条 職員が報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員、顧問若くは評議員の職を兼ね、その他いかなる事業に従事し、若くは事務を行うにも、内閣総理大臣およびその職員の所轄庁の長の許可を要する。

国家公務員倫理法
(贈与等の報告)
第6条 本省課長補佐級以上の職員は、事業者等から、金銭、物品その他の財産上の利益の供与若しくは供応接待(以下「贈与等」という。)を受けたとき又は事業者等と職員の職務との関係に基づいて提供する人的役務に対する報酬として国家公務員倫理規程で定める報酬の支払を受けたとき(当該贈与等を受けた時又は当該報酬の支払を受けた時において本省課長補佐級以上の職員であった場合に限り、かつ、当該贈与等により受けた利益又は当該支払を受けた報酬の価額が一件につき五千円を超える場合に限る。)は、一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月までおよび十月から十二月までの各区分による期間(以下「四半期」という。)ごとに、次に掲げる事項を記載した贈与等報告書を、当該四半期の翌四半期の初日から十四日以内に、各省各庁の長等(各省各庁の長および特定独立行政法人の長をいう。以下同じ。)又はその委任を受けた者に提出しなければならない。
①  当該贈与等により受けた利益又は当該支払を受けた報酬の価額
②  当該贈与等により利益を受け又は当該報酬の支払を受けた年月日およびその基因となった事実
③  当該贈与等をした事業者等又は当該報酬を支払った事業者等の名称および住所
④  前三号に掲げるもののほか国家公務員倫理規程で定める事項
2 各省各庁の長等又はその委任を受けた者は、前項の規定により贈与等報告書の提出を受けたときは、当該贈与等報告書(指定職以上の職員に係るものに限り、かつ、第九条第二項ただし書に規定する事項に係る部分を除く。)の写しを国家公務員倫理審査会に送付しなければならない。

国家公務員倫理規程
(講演等に関する規制)
第6条 職員は、利害関係者からの依頼に応じて報酬を受けて、講演、討論、講習若しくは研修における指導若しくは知識の教授、著述、監修、編さん又はラジオ放送若しくはテレビジョン放送の放送番組への出演(国家公務員法第百四条の許可を得てするものを除く。以下「講演等」という。)をしようとする場合は、あらかじめ倫理監督官の承認を得なければならない。
2  倫理監督官は、利害関係者から受ける前項の報酬に関し、職員の職務の種類又は内容に応じて、職員に参考となるべき基準を定めるものとする。

(贈与等の報告)
第8条 法第六条第一項の国家公務員倫理規程で定める報酬は、次の各号のいずれかに該当する報酬とする。
①  利害関係者に該当する事業者等から支払を受けた講演等の報酬
②  利害関係者に該当しない事業者等から支払を受けた講演等の報酬のうち、職員の現在又は過去の職務に関係する事項に関する講演等であって職員が行うものであることを明らかにして行うものの報酬
2  法第六条第一項第四号の国家公務員倫理規程で定める事項は、次に掲げる事項とする。
①  贈与等(法第六条第一項に規定する贈与等をいう。以下同じ。)の内容又は報酬(同項に規定する報酬をいう。以下同じ。)の内容
②  贈与等をし、又は報酬の支払をした事業者等と当該贈与等又は当該報酬の支払を受けた職員の職務との関係および当該事業者等と当該職員が属する行政機関等との関係
③  法第六条第一項第一号の価額として推計した額を記載している場合にあっては、その推計の根拠
④  供応接待を受けた場合にあっては、当該供応接待を受けた場所の名称および住所並びに当該供応接待の場に居合わせた者の人数および職業(多数の者が居合わせた立食パーティー等の場において受けた供応接待にあっては、当該供応接待の場に居合わせた者の概数)
⑤  法第二条第六項の規定の適用を受ける同項の役員、従業員、代理人その他の者(以下「役員等」という。)が贈与等をした場合にあっては、当該役員等の役職又は地位および氏名(当該役員等が複数であるときは、当該役員等を代表する者の役職又は地位および氏名)

倫理規程事例集(平成14年改訂版)
(鑑定書作成、論文審査等の報酬)
問182  次のような場合、報告の必要はあるのか。
・裁判の際に、医学上の鑑定書や法制上の意見書の作成を依頼され、それに対し報酬を受領した場合
・芸術作品や論文の審査、論文の査読(投稿された論文の内容が雑誌に掲載するにふさわしいか意見を述べること)を行って報酬を受領した場合
・試験問題の作成・監修を行って報酬を受領した場合
・雑誌社のインタビューを受けて報酬を受領した場合
答  いずれも講演等に該当しないので、報告の必要はない。

研究交流促進法
(研究集会への参加)
第5条 研究公務員が、科学技術に関する研究集会への参加を申し出たときは、任命権者は、その参加が、研究に関する国と国以外の者との間の交流および特定独立行政法人と特定独立行政法人以外の者との間の交流の促進に特に資するものであり、かつ、当該研究公務員の職務に密接な関連があると認められる場合には、当該研究公務員の所属する試験研究機関等の研究業務の運営に支障がない限り、その参加を承認することができる。
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