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日付 :2003年2月21日

医療事故報告制度に関する意見書


【要 約】
一定の重大な医療事故について,全ての医療機関に対し事故報告を義務づけるとともに,医療事故情報の収集機関は,再発防止のための有効な提言を行うことを目的に設置されることを求めた。
平成15年2月21日
医療に係る事故事例情報の取扱に関する検討部会 御中
厚生労働省医政局医療安全推進室 御中

医 療 問 題 弁 護 団 
代表 弁護士 鈴 木 利 廣
(連絡先)

TEL03(5698)8544 FAX03(5698)7512



医療事故報告制度に関する意見


 「医療に係る事故事例情報の取り扱いに関する検討部会」において現在検討されている、医療事故報告制度の制度設計に関し、当弁護団は下記のとおり意見を述べる。

第1 意見の趣旨

1 少なくとも「一定の重大な医療事故」については、任意的・自発的報告にとどめることなく、全ての医療機関に対して報告を義務づけ、徹底的な収集を図るべきであり、そのために必要な関連諸制度の整備を早急に行うべきである。

2 医療事故情報の収集にあたっては、医療機関からの報告のみならず、被害者および第三者からの事故通報の受け入れ、ならびに、事故事例報告の収集機能を有する他の諸制度との十分な連携等をおこない、広く収集するべきである。

3 医療事故情報の収集機関は、収集した事故情報を分析し、分析結果に基づいて再発防止のための有効な提言を行うことを設置目的とし、右目的の実現に足る能力と権限を有する組織として構築されるべきである。

第2 意見の理由

1 医療事故情報収集の意義
 医療事故情報は、医療の質および安全性を高めるための最良の反面教師である。
 事故情報の収集・分析を行うことにより、事故が発生しやすい場面(ピットフォール)の類型的な把握や、事故発生のメカニズムの解析が、初めて現実的に可能となる。このような実証的研究によって得られた成果が、医療の現場に還元されることは、医療の質および安全性を向上させ、悲惨な医療事故をなくしていくための最も有効な方法論である。
 ここにこそ医療事故情報収集の最大の意義が存するものであり、この点についてはおそらく大方の異論のないところであろう。

2 事故情報収集において必要な観点
 ところで、このような医療事故情報収集の意義に照らせば、医療事故情報の収集にあたっては、(A):「多数の事例を広く収集すること」、(B):「重大事故を漏れなく収集すること」、の2点がともに極めて重要である。
 すなわち、事故が発生しやすい場面を類型的に把握するためには、軽微な事故ないしはヒヤリ・ハット事例等であっても、また同種事故であっても、多くの事例を収集し、統計的・類型的に把握する必要がある(A)。
 また同時に、悲惨な医療事故の再発防止こそが事故情報収集の目的である以上、少なくとも、二度と起こってはならないような重大な事故については、漏れのないよう遍く収集されなければならない(B)。
 重大事故については、再発防止の要請が一層高いものであるから、例え予想される発生頻度が低かろうとも、必ず全例を検討対象として収集し、その発生メカニズムを徹底的に解析し、具体的な再発防止策が提言されなければならない。
 これら(A及びB)は、事故事例情報の収集を図ろうとするそもそもの目的論から導かれる当然の帰結である。

3 事故情報収集機関の目的および機能
 医療事故情報の収集機関は、収集した事故情報を分析し、分析結果に基づいて再発防止のための有効な提言を行うことが設置目的とされなければならず、また、このような目的を実現させるに足る調査・分析・提言のための能力及び権限が与えられなければならない。
 そして、事故情報の収集にあたっては、「多数の事例を広く収集すること」との観点(前記A)からは、医療機関からの報告のみならず、被害者および第三者からの事故通報を受け入れて検討対象とすることも重要であり、また、事故事例報告の収集機能を有する他の諸制度との十分な連携等をおこない、広く収集することが必要不可欠である。
 わが国においては、既に事故事例情報の収集機能を有する官民の諸制度が運用されているが、これら諸制度との連携により、多数の事例収集の実を挙げるべきである。

4 重大事故についての報告義務の必要性
 ところで、医療機関からの事故報告については、一般的には任意的・自発的報告制度として制度設計をすることが考え得るとしても、少なくとも、一定の重大事故については、その全数全例が収集されるような制度として構築される必要があり(前記B参照)、そのためには、わが国の現状に照らす限り、全ての医療機関に対し、重大事故についての報告義務を課すことが必要不可欠であると考える。
 わが国において、医療事故の場合、当該医療機関により意図的に事故が隠蔽される事例(あるいは隠蔽が試みられる事例)がしばしば現実に存することは、当弁護団の経験上の実感である。
 そこには、事故発覚に伴って責任を追及されることに対する、医師及び医療機関側の誤った保身意識等の原因が存するものと推察されるところであるが、とりわけ重大事故の場合においては、そのような懸念はより一層強く妥当する。
 だからこそ、重大事故の隠蔽を防止するためには、報告の直截な義務付けが不可欠であると考える。
 医療機関側の自発的・任意的な取り組みに委ねる限り、医療に関する実効的な情報開示は遅々として進まない。このことは、いわゆるカルテ開示を巡る一連の経過を見ても明らかである。
 医療事故防止は緊急の課題であり、迅速に実効ある事例収集を遂げるべきはまさしく焦眉の急であることに思いを致すべきである。
 なお、医療機関は、その公共的な性格上、説明責任を負担する立場にあるというべきであり、少なくとも社会通念上看過し難いような重大事故が発生した場合、当該医療機関は、その事案解明と再発防止に関して、社会に対して道義的責任を負うべきものである。本意見書にいう重大事故についての報告義務は、いわばこのような責任の具体化であって、何らいわれのない義務を医療機関に新たに負担させようとするものでは全くないことにも、留意されるべきである。
 ところで、この点、事故報告制度をまずスタートさせることを重視して、当面は全くの任意的・自発的制度として構築し、報告の義務化については将来の検討課題と位置づけるべしとする見解が想定される。
 しかし、いま真実真剣に再発防止を図ろうとするのであれば、やはり義務化することは不可欠であると考える。
 すなわち、重大事故についても医療機関に報告義務を課さず、任意的・自発的報告にとどめるものとしたときには、仮に一旦上がってきた報告に不足の情報があった場合、さらにこれを求めたとしても、同じく任意的ないしは自発的報告としてしか提供され得ないことになるであろう。
 しかし、それでは事案解明のために真に必要な情報が得られないおそれが多分にあるのであって、その場合有効な解析も実効性ある再発防止提言も望み得ない。
 それゆえ、事故情報収集機関には一定の調査権限が必要不可欠であると解されるが、そのような調査権限は、反面において、医療機関側に報告義務を課すことと論理的に対をなすものと考えられる。
 したがって、このような観点からも、報告制度がその本来の目的ないし機能を果たすためには、報告義務が必要というべきである。

5 報告義務を課すべき医療事故の定義
 報告義務を課すにあたっては、報告義務の対象となる医療事故の範囲の明確化が必要であるが、それはたとえば次のような定義によるべきであると考える。
「医療の過程において、作為または不作為の医療行為により、患者に通常予期せぬ死亡または重大な障害の結果が発生したことが疑われる場合。ただし、当該医療行為が不作為によるものである場合は、医療従事者ないしは医療機関に過失が疑われる場合に限る。」
 すなわち、医療事故はいわゆる「医原病型」(作為型。作為の医療行為により悪しき結果が発生した場合。)と「病状悪化型」(不作為型。不作為により原疾患の悪化等により悪しき結果が発生した場合。)の2類型に大別されるところ、このうち「医原病型」(作為型)については、①作為の医療行為の存在、②患者に死亡または重大な障害が発生したこと(結果の重大性)、③当該医療行為と当該結果との間に因果関係が存する可能性があること、との要件を満たす限り、報告義務を負うものとすべきである。事故の再発防止という報告制度の目的に照らせば、繰り返される可能性のある作為によって重大な予期せぬ結果が発生したことが疑われる限り、解析の対象とすべきだからである。
 他方、「病状悪化型」(不作為型)については、以上の①②③に加えて、④医療行為(当該不作為)に過失が存する可能性があること、を要件として、報告義務を課すべきである。あらゆる不作為を対象とすることは無意味であり、当該不作為そのものに過失が疑われる場合のみを検討の対象とすれば、再発防止の目的との関係では十分だからである。
 なお、因果関係(③)や過失(④)の存否を、自然科学的証明のレベルで厳密に証明するとすればもとより一定の困難を伴うであろうが、報告義務の対象となるか否かの判断において要求されるものはそうではなく、「社会通念上その可能性が疑われる限りは報告する」との基準をもって足るものと考える。そのような基準であれば、当該医療機関においても報告義務の対象となるか否かの判断は十分可能であると思われるし、また事例収集の実も挙がるものと考えられるからである。
 さらに、実務的には、たとえば「重大な障害」(②)の意味内容については労災保険法施行規則にいわゆる「後遺障害別等級表」を利用して実施細則を定める等により、より具体性・客観性を高めることが十分可能である。
 また、2001年8月に英国保健省が発表した医療事故報告・分析・対応指針案「Doing Less Harm(被害を減らすために)」におけるAdverse patientincidents の例示等を参考に、適切な例示列挙を加えることも有用であると思われる。

6 報告義務と憲法上の自己負罪供述拒否特権との関係
 ところで、医療機関に医療事故の報告義務を課すことは、憲法38条1項にいわゆる「自己負罪(帰罪)供述強要の禁止」に抵触するのではないかとの見解がある。
 しかし、行政法分野において一定の行政目的を達成するために報告義務を課す例は、過去においても現在においても無数に存するが(たとえば厚生行政に関連のある分野においても、薬事法69条、食品衛生法17条・19条の16など、枚挙に暇がない)、このような法制に対し、最高裁判所が憲法38条1項(自己負罪供述強要の禁止)を理由として違憲判断を下した例は、1例も存在しない。
 たとえば、
・麻薬取締法における麻薬の不正使用と記帳義務との関係においては、麻薬取扱者として免許された者は当然に取締法規の命ずる「一切の制限または義務に服することを受諾しているもの」と考えるべきだとして黙秘権の放棄を擬制し(最判昭和29年7月16日刑集8-7-1151)、
・自動車運転者の交通事故の報告義務については、報告を要求される「事故の内容」には「刑事責任を問われる虞のある事故の原因その他の事項」は含まれておらず、行政上の目的に基づくものであることを根拠として(最大判昭和37年5月2日刑集16-5-495)、
・収税官吏の所得税に関する質問検査については「実質上、刑事責任追及のための資料の収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続」ではないことを理由として(最大判昭和47年11月22日刑集26-9-554、いわゆる川崎民商事件大法廷判決)、
それぞれ違憲ではないと判断している。
 このように、最高裁判所は、事実上は供述者に不利益な事実に関連する供述義務や説明義務であっても、当該制度の目的や制度の内容、義務者の立場等を分析するアプローチを執ることにより、少なくとも過去に問題提起された事例の全てにおいて、結論において合憲判断をしてきた。
 しかも、これらはいずれも刑事責任追及のための「捜査の端緒」とも事実上なりうるものであるにもかかわらず、「実質上、刑事責任追及のための資料の収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続」(前掲川崎民商事件判旨、傍線は当弁護団)でない限り、憲法38条1項の保障に抵触しないものと解釈しているのである。
 翻ってみるに、医療事故について当該医療機関に報告義務を課すことは、前述のとおり、医療事故の再発防止という極めて公益性の高い行政目的に資するものである。
 また、医師は、医療という高度に公的な業務を社会から付託された免許者であるから、重大事故について社会に対して説明責任を果たすことはむしろ責務でさえあるともいいうる(前掲麻薬取締法違反事件判旨参照)。
 他方、報告義務を、刑事責任追及に「直接結びつく作用を一般的に有する」ものではない形で制度設計することは、今後十分可能である(前掲川崎民商事件判旨参照)。
 このように、少なくとも前述のような最高裁判所の判断枠組みに拠って検討する限り、憲法38条1項に抵触しない報告義務制度を構築することは、十分に可能である。
 逆に、もし仮に、医師が医師であるとの一事をもって報告義務を一般的に免れるものとするならば、それは、上述の最高裁判例の事例における自動車運転者等との対比において、合理的説明が著しく困難な立論であるように思われる。
 以上の次第で、当弁護団は、医療機関に対し、少なくとも重大事故についての報告義務を課すことは、必要であり、合理的であり、かつ十分に憲法適合的であると考えるものである。

7 結語
  よって、「第1 意見の趣旨」記載のとおり意見を述べる。

  以 上
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