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プレスリリース

日付 :2003年4月24日

カルテ開示法制化などに関する意見書


【要 約】
個人情報保護法とは別に、患者の権利の尊重を基本としたカルテ開示に関する法律を定めるべきこと、カルテの正確性・充実性を確保する諸施策を講じることを求めた。
2003年4月24日
診療に関する情報提供等の在り方に関する検討会 御 中
厚生労働省医政局  御 中

医療問題弁護団
代表 弁護士 鈴木 利廣
(連絡先)
〒124-0025 東京都葛飾区西小岩1-7-9
西小岩ハイツ506
電 話 03-5698-8544
FAX 03-5698-7512

意見書

当弁護団は、医療事故被害者の救済、医療事故の再発防止のための諸活動を行い、これらの活動を通じて患者の権利を確立し、安全で良質な医療を実現することを目的とする弁護士の団体である。
診療に関する情報提供の在り方について、以下のとおり、意見を述べる。

〔用語の定義〕
診療情報とは、
「診療の過程で、患者の身体状況、病状、治療等について、医療従事者が知りえた主観的・客観的情報のすべて」

診療記録等とは、
「診療録、手術記録、麻酔記録、各種検査記録、検査成績表、エックス線写真、助産録、看護記録、その他、診療情報に関して作成、記録された書面、画像等の一切(要約書、処方録及び処置録を含む)」

診療記録等の開示とは、
「患者やその遺族など特定の者に対して、診療記録等の閲覧、謄写の求めに応ずること」


意見の趣旨

1 診療記録等の開示を法制化すべきである。
法制化にあたっては、個人情報保護法とは別に、患者の権利の尊重を基本とした立法(既存の法律の改正を含む)によるべきである。

2 診療記録等が正確で充実した内容を伴ったものとなるよう諸策を講じるべきである。

意見の理由

1 診療記録等の開示の法制化

(1) 開示の必要性

ア 開示の意義

 診療記録等の開示は、しばしば、医療従事者と患者との信頼関係を構築するための、あるいは医療の質と安全性を高めるための、重要な方法論として論じられる。もとより、このような指摘それ自体の正当性については、既に大方の異論がない。
 しかし、診療記録等の開示の意義ないし重要性は、このような実際上の観点にのみとどまるものではない。
 すなわち、医療は、その本質において、患者が、専門家たる医療従事者から、診断に基づく必要な情報の提供を受け、医学的根拠に基づく治療の選択肢を適切な説明とともに提示されたうえで、これを主体的に選び取っていくことにより成立し、正当化され、適法化されるものである。それゆえ、このような営みを成立させる前提として、患者が診断ないしは治療方法選択に関連する事実や、医学的判断の根拠の詳細を知りたいと求める場合、それを保障するルールがなければならない。正にそれが診療記録等の開示の保障である。
 したがって、診療記録等の開示は、本来、医療の適法化要件と密接不可分な重要性を有するものである。
この点、貴検討会の論点整理において、開示の必要性は「信頼関係の構築」にあるとされているが、医の説明責任や患者の権利の視点を欠いている。

イ 特に医療事故発生時の開示の意義について

 また、診療記録等の開示は、医療事故発生時において一層重要である。
 医療事故が発生した場合、事故の被害者は、診療経過に関し、正確な事実関係に基づく詳細な説明を受け、事故の真相を把握することなくして、自らの、あるいは自己の最愛の肉親の受けた被害を、受け止め、受容し、これを克服していく途を見いだすことができない。
 このような意味で、事故発生時の診療記録等の開示は、事故被害者・家族にとって、被害回復のための本質的要素を構成するものである。

(2) 開示の現状

 ところで、このような重要性を有する診療記録等の開示であるにもか かわらず、現状は、全面開示には程遠いものといわざるを得ない。
 医療審議会の「医療提供体制の改革について(中間報告)」(1999年7月1日)が発表されて以来、主として医療従事者側の努力により、「国立大学附属病院における診療情報の提供に関する指針」、日本医師会「診療情報提供指針」等、各種のガイドラインの作成等の取り組みがなされてきた。
 しかし、例えば前記日本医師会指針(2002年10月22日改訂)においても、「裁判問題を前提とする場合はこの指針の範囲外」とされているなど、ガイドラインの内容そのものが全面開示とは言い難い状況が残存している。「裁判問題」とは医療事故事例を念頭においたものと思料されるが、前述のとおり、事故被害者にとっては、被害回復のためにもとりわけ開示の重要性は高いものと考えられ、このようなガイドラインは殊更に被害者に背を向けようとするものであるといわざるを得ない。
 医療現場の現実に目を転ずれば、状況は一層深刻である。
社団法人日本看護協会「診療情報の提供の在り方に関する意見」(2003年2月6日)によれば、診療情報の開示状況について、「患者の請求に基づく診療記録の開示」に関する規定(指針・手順)がある病院は、2000年の36.4%から2002年には49.2%に増えたが「まだ半数に満たない」とされている。
   開示ルールをもつ医療機関においても、ルール自体に不開示事由が多いうえ、その解釈が医療機関側の恣意的な裁量に委ねられている。そのため、例えば日本赤十字社では、診療記録等に基づいて診療内容の説明をするとしながら、診療記録等のコピーについては拒絶する対応をとっている。また、開示ルールが定められている大学病院の附属病院において、「カルテ開示は権利ではないから。」との理由で開示を拒絶された事例も、つい最近発生している。
 他方、日本医師会所属の開業医において、ガイドラインに従わない不開示事例も枚挙に暇がない。
 このような現状は、ガイドライン制定による開示への誘導という対応手法そのものの限界を示している。

(3) 法制化の必要性

 以上のような現状に照らす限り、診療記録等の開示は、法制化によって推進することがどうしても必要である。
 法制化すなわち法律による義務付けは、開示に背を向け続ける一部医療機関に対する唯一の対応策である。このような医療機関が現に存在する以上、法制化が必要であることは明らかである。
 他方、良心的な医療機関によるこの間の積極的な取り組みについては評価するが、そのような良心的医療機関が法制化により不利益を蒙ることは全くないことにも留意されるべきである。
 当弁護団は、診療記録等の開示請求権については、準委任契約に基づく報告義務(民法645条)により基礎づけられる権利であり、現行民法の解釈論としても権利性が認められると解するものであるが、これを争う医療現場が現に存する限り、端的な立法による解決が必要であると考える。(なお、診療録開示請求権が否定された裁判例としてしばしば東京高裁昭和61年8月28日判決(判例時報1208号85頁)が引用されるが、同判決は、いわゆる本人訴訟であることもあってか問題点が掘り下げられていないと評価されている事案であるうえ(前掲判例時報解説)、判決文中においても、医療事故の発生が前提とされた場合等においては異なる立論が可能である旨の留保が付されているのであって、判例が診療録開示の法的権利性を一律に否定しているとみることは適切ではない。)

(4) 「個人情報保護法」に基づく開示の問題点

 ところで、診療記録等の開示については、いわゆる個人情報保護法の法制化により、患者が要請すれば診療情報を入手できる法的環境は整うのであるから、それとは別異の立法は重ねて必要がない、とする議論も散見される。
 しかし、このような見解は失当である。
 本来、個人情報保護法は、高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大している現状に鑑み、個人情報の有用性に配慮しつつ、プライバシー権ないしは情報に関する自己決定権の観点から、個人情報の保護を図る趣旨に出た立法である。
 もとより、診療記録等にも個人情報保護法による法規整が妥当する側面があり、その限りにおいて同法が適用されるのは当然である。
 しかし、診療記録等の意義はそれにとどまるものではなく、前述のとおり、診断・治療の根拠を患者と医療機関が共有しあい意思決定を成立させるための本質的要素という一面がある。したがって、開示の要請は、必然的に診療記録等そのものの在り方を問う側面を孕むものでもあるが(後述)、それは、単に診療記録等に記載された個人情報を保護するという個人情報保護法の趣旨を明らかに超えるものである。
 また、個人情報保護法の内容自体、実施のための細目的な事項も含めて不確定的であり、たとえば権利主体、行使できる権利の内容、権利行使手続その他の事項について、診療記録等の開示に真に適した法制であるかどうかの判断も、現時点では不可能である。
 この意味においても、診療記録等の開示を個人情報保護法の規整に全面的に委ねることは適切ではない。

2 診療記録等の充実

(1) 診療記録等の役割

ア 適正な医療の実現

 今日の医療環境のもとで適正な医療を実現するためには、診療記録等の役割は極めて重大である。
 まず、今日では、医療従事者は1人で多くの患者を担当せざるをえず、正確で充実した診療記録等の助けなしには適正な医療を行えない。
 また、医療が高度に専門化・分化する一方で、複数の疾病に罹患した患者が増え、複数の医療従事者が1人の患者を担当する場面も増えている(いわゆる「チーム医療」)。ここにおいては正確で充実した診療情報の共有が必要不可欠である。
 さらに、患者の権利意識が高まり、医療知識へのアクセスが容易になったことから、患者が自らの選択で複数の医師・医療機関の診察を受けることも想定されるようになってきた(「セカンド・オピニオン」の権利)。正確で充実した診療記録等があって始めて意義あるセカンド・オピニオンを受けることができる。
最後に、医療従事者が正確で充実した診療記録等の作成に努めれば、自らの判断プロセスを再検証することになり、医療事故の防止につながる。

イ 説明責任と診療情報の共有

 患者のインフォームド・コンセントの権利を保障するためには、診療記録等の開示が有効な手段である。その診療記録等は正確で充実したものであると同時に「わかりやすい」ものでなければならない。このような内容を備えた診療記録等を開示することによって、医療側は説明責任を果たすことができる。
 また、このように医師と患者が診療情報を共有して患者が主体的に医療に参加することは医療の安全性の向上につながる(医療安全対策検討会議平成14年4月17日「医療安全推進総合対策」)。

ウ 透明性の確保
 正確で充実した診療記録等が適切に管理・保存されていることは、医療の透明性確保にも役立つ。「どのような医療行為がどのような根拠に基づいて行われたかが資料として残されており、それに患者がいつでもアクセスできる」という環境こそが、医療に透明性をもたらす。そして、医療の透明性が確保されて始めて医者と患者の信頼関係が構築されうる。

エ 医療事故時

 特に医療事故時には、診療記録等の開示が不可欠である。 
 なぜなら、医療事故時には、医療側が積極的に診療記録等を開示して患者との間の信頼関係を再構築すべく努力すべきであり、医療側の説明責任と医療の透明性が強く求められるからである。
また、第三者による検証を経ることによって将来の事故防止にもつながる。

(2) 診療記録等の現状

 しかしながら、診療記録等の現状は未だ不十分である。
 例えば、現実の診療録は、医師ごとに病名、手術術式名、診療行為の表現などがまちまちで、意味不明な略語が使われていることもある。敢えて英語やドイツ語で記載されていたり、判読できない文字で記載されていたりする例もある。
診療記録等の記載方法としては、問題指向型診療記録(problem oriented medical record、「POMR」)が提唱されて久しいが、必ずしもすべての医療従事者に採用されているわけではない。しかしながら、「問題指向型」で記載されていない診療記録等から「医療従事者がどのような判断プロセスで当該医療行為に至ったのか」を読み取ることはかなり困難である。
 私たち弁護士が日々受ける相談事例においても、極めて簡略な記載しかされていない診療記録等に出会うことがしばしばある。また、「診療録記載が客観的事実と合致しない」、「麻酔記録が残されていない(作成されていない)」、「分娩監視記録が保存されていない」、「エックス線写真が足りない」などの例も報告されている。
さらに、医療過誤訴訟判決の中で「改ざん」「改ざんの疑い」が認定・指摘されている(判例タイムズ第987号「カルテ等記載と事実認定についての判例研究」森豊)。

(3) 望まれる診療記録等の在り方

 では、どのような診療記録等の在り方が望まれているのであろうか。
 そもそも第三者に認識できない記載では、適正な医療の実現にもインフォームド・コンセントにも医療の透明性確保にも役立たない。また、その内容がその時々の患者の病状を正確に記録したものでなければ、資料としての価値に乏しい。同時に、医療行為が行われた判断プロセスを事後的に検証できるものでなければならない。
したがって、診療記録等には、少なくとも以下の点が備わっていなければならないと考える。

① 第三者が認識できること
(例 わかりやすい日本語を用いて読み易い文字で書かれている)
② その時々の患者の病状を正確に伝えるものであること
(例 記載漏れや誤記がない)
③ 医療行為の判断プロセスが読み取れること
(例 どのような疾患の可能性を疑って検査を進めたのかが明示されている)
 念のため付言すれば、そもそも診療記録等がいつでも認識できる状態になければ活用できないのであるから、前提として、すべての診療記録等が適切に管理・保管されていなければならない。

(4) 考えられる諸策

望ましい診療記録等を達成するために、以下の諸策が考えられる。

① 記載項目、使用用語、疾病病名など、記載内容や記載方法の標準化(指針の作成など)
② 診療録、手術記録、退院時要約、看護記録などを医療行為後速やかに作成することの義務化
③ 診療記録等に関する院内監査システムの導入
④ 診療記録等の管理・保管体制の整備(診療情報管理士などの人的要因の確保など)
⑤ 医療従事者が故意に診療録等に虚偽記載をした場合の対応策(制裁を含む)

3 貴検討会に求められること

(1) カルテ等の診療情報の活用に関する検討会報告書(平成10年6月18日)

 同報告書は、「Ⅸ法制化の提言」において「検討会としては、医療の場における診療情報の提供を積極的に推進するべきであること、また、今日、個人情報の自己コントロールの要請がますます強くなり、行政機関に限らずあらゆる分野においてその保護政策の充実が図られていること等にかんがみると、法律上開示請求権及び開示義務を定めることには大きな意義があり、今後これを実現する方向で進むべきであると考える」と明確に「診療情報開示法制化」の方向性を示した。
 そして、小林政資厚生省健康政策局長(当時)は、入澤肇議員からカルテ開示法制化への対応を問われ、「最終的には審議会のご報告をいただいて、そして法制化に向けて努力をしていきたい、このように思っております」と答弁している(平成11年4月15日参議院国民福祉委員会)。
患者の人権の尊重を基本とした同報告書は広く国民に受け入れられ、マスコミも「開示法制化」の方向性を支持した。
 しかしながら、日本医師会の強い反対にあい、平成11年7月、医療審議会は開示法制化を今後の検討課題として、その実施を見送った。
 それから「3年を目途」とされた環境整備期間が経過し、貴検討会が組織された。その貴検討会において、再び開示法制化の是非が俎上にのぼり、同報告書の意義を失わしめるかのような議論が繰り返されていることは極めて残念である。

(2) 患者の権利の尊重を基本とした議論を
 同報告書が発表されてから約5年が経過し、患者の権利意識はより高まってきている。また、この間の医療界の努力により開示法制化の環境も整いつつある。例えば、日本医学会が「医療提供者は、医療の透明性を確保するとともに、その説明責任(アカウンタビリティ)を果たさなければならない。そのためには、情報開示やEBM(evidence-based medicine)、診療ガイドラインによる医療の標準化などを積極的に進める必要がある」と宣言(平成15年4月6日福岡)したように、医療界でも「情報開示は義務である」との認識が浸透してきた。
 したがって、貴検討会が、患者の権利の尊重を基本に考え、開示法制化を提言すべきことはむしろ当然のことと言える。
貴検討会には、開示法制化を前提に、どのような診療録が望ましいのか、それを達成するためにどのような諸策が考えられるのかにつき、十分に議論を尽くすことを今後期待する。
 
以上
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