医療問題弁護団とは?

  • 代表者プロフィール
  • 医療問題弁護団の概要
  • 最近の活動
  • 提供するサービス
  • 医療的専門知識の習得
  • 弁護団による集団的検討のシステム
  • 苦情解決システム
  • 入団を希望される弁護士の方へ

団員解決事件

  • 団員解決事件一覧

相談から訴訟等までの流れ

  • 相談
  • 調査活動
  • 訴訟等
  • 費用
  • 相談票ダウンロード

医療事故Q&A

  • 1.医療ミスを疑ったら
  • 2.法律相談準備 - 弁護士に相談するにあたって
  • 3.調査とは
  • 4.専門家(医師)の協力
  • 5.医療機関による説明(説明会)
  • 6.責任追及について
  • 7.医療裁判の流れ
  • 8.費用について
  • 9.医療裁判の現状

弁護士の声(団員リレーエッセイ)

プレスリリース

医療過誤判例集

各地相談窓口連絡先

各種資料

リンク

個人情報の取扱いについて

医療問題弁護団

弁護士の声(団員リレーエッセイ)

医療機器の治験とプロトコル違反が問題となったある裁判

弁護士 細川 大輔


1)去る7月に、ある医療裁判が終結した。裁判が始まってから3年が経ち、患者さんが亡くなってから、6年が過ぎようとしていた。

この裁判は、当時、未承認であった補助人工心臓「エヴァハート」の治験(臨床試験)に参加した患者(Aさん、40代女性)が、合併症(脳出血)により死亡したことを理由として、Aさんの遺族が、治験を実施した医療機関の責任を問うたものであった。(注1)

2)医療機関は、治験を実施するに際し、治験依頼者(製造業者)の作成したプロトコル(治験実施計画書)の規定を遵守しなければならない。

「エヴァハート」のプロトコルには、体表面積(BSA)が1.4㎡未満の患者は治験に参加することができないという規定があった。ところが、Aさんの「エヴァハート」植込み手術直前のBSAは、1.38㎡であり、プロトコルの定める基準値を下回っていた。

そうであれば、Aさんを治験に参加させたことはプロトコル違反であり、違法ではないか。この点が、裁判での最も重要な争点であった。

3)もっとも、私は、依頼を受け、調査を開始した当初は、病院の責任を問うことは難しいのではないかと感じていた。

確かに、プロトコルには、「BSA=1.4㎡」という明確な基準値が定められている。ただ、実際の数値(1.38㎡)との差は、0.02㎡とごくわずかであり、この程度の違反であれば、裁判所は民事上の違法性を肯定しないのではないだろうか。当時、治験についての知識が不十分であった私は、このように考えていた。

4)しかしながら、その後、治験に関する文献を読みあさった結果、このような認識が誤りであることが理解できた。

治験においては、未だ安全性が確認されていない医薬品や医療機器が人体に適用される。その意味で、治験は、「人体実験」にほかならず、患者の人権が侵害される恐れは通常の医療行為に比して遙かに大きい。したがって、治験の実施が法的に正当化されるためには、プロトコルを守ることが絶対条件とされなければならない。

「BSA1.4㎡までは大丈夫なのだから、これをわずかに下回る1.38㎡の患者にも安全に植込み手術を実施できるだろう」という推論は、こと治験においては、決して許されないのである。

5)長い審理の末、1審判決(東京地判平成26年2月20日)は、プロトコル違反とその違法性を肯定し、病院の民事責任を認めた。(その後、控訴審で和解が成立し、裁判が終結した)

判決文では、「本来、治験は、未だ人体に対する安全性が確認されておらず、医療行為として認可を受けていない段階において、人体に対する侵襲を伴う行為を実施する性格を有するものであるからこそ、プロトコルを定め、これを遵守することにより、治験実施の正当性が基礎付けられる」と、治験におけるプロトコル遵守の重要性が明言された。(注2)

6)Aさんは、重度の心臓病で長期間入院し、もはや内科的治療は限界であると告げられていた。そのような時、担当医から、「エヴァハート」の治験に参加することを提案された。Aさんは、迷った末、治験に参加することを決意した。

もちろん、担当医も、Aさんを実験台にするつもりで、治験への参加を提案したわけではないだろう。しかし、プロトコルの規定を冷静に客観的に解釈すれば、Aさんを治験に参加させることが許されないことは明らかであった。

7)裁判が終わって、Aさんの7回忌が近づいたある日、私はAさんのご自宅を訪れ、仏壇に手を合わせた。

Aさんが裁判の結果をどのように受けとめたか、私には分からない。私にできることは、Aさんの冥福を祈ること、そして、医療現場において、Aさんの症例を貴重な教訓として、臨床試験におけるプロトコルの重要性についての認識が、より一層深まることを願うことである。


注1:なお、この裁判では、「エヴァハート」の性能や安全性が争点とされたわけではない。

注2:1審の判決文は、判例雑誌(判例時報2223号41頁)に掲載されている。

(2014.11.2記)
ページトップへ↑