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最高裁の壁

弁護士 木 下 正 一 郎

1 2つの敗訴確定事件

 平成18年、2つの事件で最高裁に上告兼上告受理申立を行った。
 1つは、病院に対する名誉毀損行為があったとして医師が訴えられた事案で、私は上告時から弁護団に名前を連ねた。上告受理申立理由の補充をして攻勢に出ようとしていた矢先、最高裁から上告棄却決定が送られてきた。
 もう1つは、一審を他の弁護士が担当していて、控訴審から受任した医療訴訟である(以下、「本件」という場合、この事件をいう。)。控訴審で複数の鑑定意見書を提出し、できる限りの主張立証活動を行ったが、控訴審でも敗訴し、上告兼上告受理申立を行った。年の瀬も押し迫った時期に上告棄却を伝える決定調書を受け取った。

2 法律審たる最高裁

 学校では、日本の裁判制度は三審制をとっている、と教わってきた。しかし、裁判で3回同じ戦いをするチャンスが与えられているわけでは決してない。
 最高裁は法律審である。事実関係を争うことができるのは二審までで、二審での事実認定の誤りを理由に最高裁に不服申立をすることはできない。二審が認定した事実を前提にして、二審の判断に憲法違反がある場合等に上告ができる(民訴法312条1項2項)。また、最高裁判例に反する判断がある場合や、法令の解釈に関する重要な事項を含む場合には、最高裁は、上告受理申立を受けて、裁量により上告審として事件を受けることができる(民訴法318条1項)。
 憲法違反というのはそうそうあるものではない。そこで重要なのが上告受理申立である。本件でも、力を入れて二審の判断が最高裁判例に反していること等を理由書で訴えた。書き上げたときには、自分が最高裁で弁論する姿を思い浮かべた。今考えると赤面ものである。
 しかし、両事件で受け取った決定書には、上告受理申立てについて「本件申立ての理由によれば、本件は、民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。」との記載が一文あるだけであった。
 以前、全く別件の相談者から、医療過誤事件については、最高裁が患者側を勝たせる判決を以前より出すようになったそうだから、地裁・高裁で勝てずとも最高裁まで争えば勝てるのではないかと尋ねられたことがある。私は、「最高裁もそう甘くないですよ。」と答えたが、今回は身をもって思い知らされた格好だ。

3 本件依頼者の言葉を胸に

 本件では、控訴審でも最高裁でも破れ、この結果に依頼者としても納得されていないが、それでも私をはじめ担当した弁護士に、頑張っていただき感謝しているとの言葉を下さった。ありがたい限りである。
 そもそも弁護士になって医療訴訟に取り組もうと思ったのは、非のない患者・家族が突然の被害を受け不幸な事態に陥っていることに対して、こういう方々の力になる仕事ができれば、と思ったからである。この当初の願いを達成するために、本件依頼者からいただいた言葉を胸にさらに精進していきたい。