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プレスリリース

日付 :2003年4月15日

最高裁医事関係訴訟委員会への意見書


【要 約】
最高裁医事関係訴訟委員会に対して,医療訴訟における鑑定書の内容が適正・公平であることを確保するための制度的担保として,(1)鑑定書の内容等の公表制度,(2)鑑定人の推薦手続の透明化と,鑑定内容に対する事後評価制度の確立,(3)鑑定書の内容は,誠実性・論理性・科学性の3点の基準から評価すべきこと等を提言した。
2003年(平成15年)4月15日

最高裁判所医事関係訴訟委員会御中
東京都葛飾区西新小岩1-7-9 西新小岩ハイツ号506
03-5698-8544 03-5698-7512 電話FAX
医療問題弁護団
代表弁護士鈴木利廣

名古屋市東区泉1-1-35 ハイエスト久屋6階
052-951-1731 052-951-1732 電話FAX
医療事故情報センター
理事長弁護士柴田義朗

名古屋市中区丸の内3-2-22 名城ビル6階
052-061-3325 052-961-3326 電話FAX
医療過誤問題研究会
代表弁護士増田聖子

意見書

前略

貴委員会では、平成13年7月の発足以後、正式に取扱った案件だけでもすでに45件の鑑定人候補者推薦依頼が取り扱われています。しかも相当数の案件ではすでに鑑定人が実際に選任されて鑑定書が作成されており、一部には事件が終局的な解決に至ったものも出ています。
そこで私たちは、貴委員会に対し、下記の3点を要望致します。



(要望事項)

1 鑑定書の公表について

 貴委員会を介して選任された鑑定人が作成した鑑定書については、その内容を公表すること。
 なお、公表にあたっては、鑑定人の氏名とその事案の概要(診療経過一覧表等。ただしプライバシーに配慮するために事件関係者の氏名等は匿名化したもので足りる)を併せて公表すること。

2 学会内推薦手続の透明化及び学会内鑑定結果事後評価制度の確立促進について

 貴委員会から、鑑定人候補者の推薦を依頼した各学会に対して、学会内での候補者推薦の手続や推薦基準等について明らかにするよう促すこと。
また、各学会が推薦した候補者が鑑定人に選任された場合には、その鑑定人が作成した鑑定書の内容について学会内において事後評価を行って、その評価結果を明らかにするよう促すこと。

3 貴委員会による鑑定書の内容の評価について

 貴委員会が鑑定書が具備すべき要件である1)誠実性、2)論理性、3)科学性の3点の基準に照らすことによって、司法的見地から鑑定書の内容の評価を行うこと。

(要望の理由)

1 鑑定を巡る2つの問題点~「量」そして「質」

 従来の医事関係訴訟の鑑定については、大きく分けて2つの問題点が指摘されてきました。1つは、鑑定人の選任から鑑定書が提出されるまでに長い時間がかかるため、裁判が遅延するという点です(鑑定の「量」の問題。)
 この点については主として鑑定の引き受け手となる医師が少ないことや、鑑定人が鑑定書を作成するまでの手続自体が長期化することが原因となっていましたが、貴委員会の積極的な取り組みにより、鑑定人となる医師の層が広がりつつあり、鑑定人選任から鑑定書が提出されるまでの期間についても短縮傾向が見られるなど、大きく改善されつつあると思われます。

 しかし鑑定に関する問題点は「量」の点だけではありません鑑定の「質」についても改善の必要性があります。

 例えば、脳神経減圧術事件(最高裁判所第三小法廷平成11年3月23日判決)では、裁判所は、原審の依拠した鑑定書が「わずか1頁に結論のみを記載したもので、その内容は極めて内容の乏しいもの」であって、手術記録やCT写真等の「客観的資料を評価検討した過程が何も記されておらず、その体裁からは、これら客観的資料を精査した上での鑑定かどうか疑いがもたれないではない」と指摘し、原判決を破棄して審理を差し戻しています。この他にも、ここ数年の最高裁の判断には、原審が立脚した鑑定の内容に疑問を呈しつつ原判決を破棄したものがいくつも見られます(最高裁判所第三小法廷平成9年2月25日判決、最高裁判所第三小法廷平成8年1月23日判決など。)

私たちは、本来、鑑定書には、次のような要件が具備されているべきであると考えます。

1)誠実性:与えられた資料を十分に検討したことが鑑定書の記載からうかがわれる等、鑑定書の内容が充実したものとなっていること

2)論理性:回答が与えられた鑑定事項に対応しており、結論と理由に論理的な整合性があること

3)科学性:自己の経験のみに立脚することなく、文献を引用する等、合理的な科学的根拠を示していること

 しかし、上記の最高裁判決のケースに代表されるように、本来鑑定が備えているべき誠実性、論理性あるいは科学性を欠く鑑定書が、残念ながら少なからず見受けられます。
 このため、私たちは、鑑定人の供給や鑑定手続の迅速性といった「量」の問題だけではなく、鑑定が備えるべき「質」の問題についても、改善に向けた努力が必要であると認識しています。

2 鑑定の「質」を阻害する構造、環境、そして封建性

 鑑定の「質」の維持・向上を阻害している要因はいくつか挙げられます。

 例えば、司法の側から医師である鑑定人に対し、鑑定の趣旨や鑑定人が果たすべき役割を十分にアナウンスしてこなかったこともその一因であったと考えられます
(この点については、貴委員会でも、鑑定人向けのパンフレットを作成する等、改善に向けた努力を尽くして来られたことと思います。)

しかし、この点以外にも、次に挙げるような鑑定の「質」の維持・向上を阻害する要因が存在します。

1) 医師が他の医師の診療内容を検討するという「構造」的要因

 医師は、専門家として鑑定人となるだけではなく、ひとたび自分も事故を起こせば被告ともなりうる立場にあります。このように、医事関係訴訟
の鑑定においては、いわば「潜在的な被告」でもある医師が、他の医事関係訴訟の内容について意見を述べることとなり、鑑定の中立性や公正性を
阻害しやすい「構造」が内在しているといえます。

2) 鑑定結果が他人の目には触れにくい「環境」的要因

 作成した鑑定書は公開の法廷に提出されますが、実際には、同僚たる医師らの目に触れることはほとんどありません。つまり、同じ専門家の前で
は恥ずかしくて言えないような不公正な意見であっても、法廷において提出しうる「環境」が存在しているといえます。

3) 医療界に相互批判を尊重する文化が根付いていない「封建性」の要因

 残念ながら、医療界には、手術時のミスを隠蔽するために組織ぐるみでカルテの改ざんを行った東京女子医大事件に代表されるように、同僚同士
が忌憚のない議論を行って事故の原因を探求し、誤りがあれば謝罪し、再発防止策を自発的に検討するというような、相互批判を尊重する安全文化
が十分に根付いてきたとは言い難く、医事関係訴訟において鑑定人が率直な意見を述べ難い「封建性」が今なお色濃く残存しています。
以上のような鑑定の質を阻害する要因については、これまで鑑定を担当してきた医師の側からも指摘されています。
 例えば長年にわたって多数の鑑定を担当してきた我妻堯医師(産婦人科、
国際厚生事業団参与)は、その著書において、次のように指摘しています。
 「多くの医師は、裁判の当事者である被告あるいはその先輩・後輩などとどこかでなんらかの人的繋がりがあるために『明日はわが身』という思いが、鑑定を引き受けることを躊躇させているのではないだろうか。現在の医局制度では、大学の教授が当該大学周辺地域のいわゆる関連病院の医長や医員の人事権を握っている。したがって、被告医師が直接の弟子でなくとも、その医療機関の各科が自分の大学と人事の交流があるという繋がりを持つことが少なくない。内科や外科は医師の数が多いから、そのあたりは人間関係が薄まってしまうのかもしれないが、産婦人科は中等度の規模であるために鑑定を依頼されるような権威のある医師の大部分は教授・助教授、国・公立病院の長であるから、当然、全国規模でなんらかの繋がりを持つことになる」。
(中略)
 「鑑定の中立性についてさらに述べると大学教授でも決して中立の立場で、教科書に書かれているような医療の原理・原則を鑑定書に書くとは限らない。むしろ反対に『大学教授は医師の味方をするのが当然だ』と某国立大学教授が広言したとの噂を聞いたことがあるし、著者の後輩の某大学教授の書いた鑑定書を読む機会があり『あの誠実な人がこんなことを書くのか?』と驚いたこともある。具体的には、ある事例の分娩監視装置記録に明らかな遅発一過性徐脈が反復しているのに鑑定書には『一過性徐脈が認められる』とのみ記載され、その一過性徐脈がいかなる性質のもので、胎児の状態がどうなっているのかに関しては一切記述を避けていた。
 また、某私大教授の書いた鑑定書は、日本語の文章は用紙数枚程度でその後に英文教科書のコピーを綴じあわせてあるだけで、鑑定書の意義をどう考えているのか判断に苦しむものも見受けられる」。
(我妻堯『鑑定からみた産科医療訴訟』日本評論社年~ 2002 p22 23)

 鑑定の「質」の維持・向上を考えるにあたっては、以上に挙げたような阻害要因の存在を認識した上で、適切な改善策をとることが不可欠です。

3 透明性の高い鑑定環境の確保と封建性の排除

 無論、私たちも、全ての鑑定人が不公正で中立性を欠いた意見を述べると考えているわけではありません。このような阻害要因が存在してもなお誠実に質の高い鑑定を行う医師がいることも十分に認識しています。
 しかし、こういった質の高い鑑定は、鑑定人個人の誠意や人格的資質に大きく依存してようやく実現しているに過ぎず、鑑定の質の高さを維持・向上させるための客観的制度は極めて脆弱であるといわざるをえません。
 鑑定人個人の資質に頼る鑑定制度では、鑑定人の属人性によって鑑定の質が左右される可能性が高いため、制度の利用者である国民から幅広い信頼を勝ち得ることは困難であり、上記に述べたような鑑定の質を阻害する要因を除去するための制度的な改善策を検討すべきです(ただし医師が医師の行為を評価検討するという「構造」的要因は、鑑定制度においては不可避といえますので、主として「環境」と「封建性」をいかに改善するかを検討することとなります。)

 そこで、私たちは、透明度の高い鑑定環境を実現し、かつ、医療界に相互の批判を尊重する非封建的文化を浸透させるために、貴委員会に対し、頭記の3点の実現を要望します。各要望事項の詳細は次項以下に述べるとおりです。

4 要望1:鑑定書の公表

1)貴委員会を介して選任された鑑定人が提出した鑑定書については、ホームページその他を通じて公表し、鑑定そのものについての基本的な透明性を確保するべきです。

2) 鑑定書の内容についてはもともと公開の法廷に提出されていますので、公表することに特段の支障はないはずです。また、透明性の観点からすれば、鑑定人の氏名については、当然公表されるべきです。鑑定人は公的機関である裁判所が選任して専門的意見を求められているのですから、鑑定人の氏名の公表について鑑定人の同意を得ることは不要です。

3) 鑑定書の公表の方法としては逐次最高裁判所のホームページに掲載し、一定数がまとまった段階で書籍として刊行するという方式が合理的と考えます。

4)鑑定書の公表にあたっては、事件関係者については匿名とする等、事件関係者のプライバシーに配慮するべきです。

5)なお、各事件の概要が分からないと、鑑定書の内容を評価することは困難ですので、事案の概要(診療経過一覧表等を活用することが考えられます)等を併せて公表することが必要です。また、鑑定書記載の意見について、法廷での証言等で変更を加えることもあり得ますので、そういった場合には尋問調書やその要約等を付するというような工夫も必要と思われます。

6)公開時期については、鑑定の結果が公開の法廷に提出されるものである以上、その都度公開されることについて問題はないと考えますが、公表
制度が定着するまでの間は、まず、その事件が和解や判決の確定に至った後に公開するということにも一定の合理性があると考えます。

5 要望2:学会内推薦手続の透明化と学会内鑑定結果事後評価制度確立の促進

1)学会内推薦手続の透明化の促進

 貴委員会では、現在、鑑定人候補者の選任に適する学会の選定を行うにとどまり、具体的な候補者の選任過程については、各学会に一任していま
すが、学会内での候補者推薦の手続がブラックボックス化することは、推薦された鑑定人候補者に対する信頼性を減殺することにつながります。
そこで、貴委員会が、各学会に対し、1)どのような手続で候補者を選出したのか2)どのような基準で候補者を選出したのか、といった点の
説明を積極的に促すことで、学会内推薦手続の透明化を図るべきです。

2)学会内鑑定結果事後評価制度の確立の促進

 各学会は、医学的当否について相互に批判的検討を行うことを尊重し、非封建的な文化の排除に努めるべきです。そのためには、推薦された医師
が実施した鑑定結果の医学的当否について、学会内において事後評価(いわゆる「ピアレビュー)を行ってその結果を対外的に明らかにし、その」
後の鑑定人候補者推薦のためにフィードバックするという制度の確立が不可欠です。
 貴委員会としても、各学会に対し、以上のような事後評価制度を確立するよう積極的に呼びかけるべきです。

3)貴委員会から学会への働きかけの方法について

 なお、すでにいくつかの学会では、学会内に貴委員会からの推薦依頼に対応するための委員会等を設置して、組織的な対応体制を構築しつつある
ようですので、貴委員会からも、そういった動きをサポートする働きかけを行うべきです。
 具体的には、まず貴委員会が、各学会内の推薦手続や事後評価制度の実情について聴き取りを行って情報を集約し、集約された情報を各学会へフ
ィードバックするといった活動を行うことによって、先進的な学会の取り組みが他の学会へと波及することを側面からサポートするような活動が考
えられます。

6 要望3:貴委員会による鑑定書の内容の評価の実施

 昨年10月の貴委員会では、鑑定書の「評価」について議論が行われたようですが、その席で、貴委員会事務局からは次のような説明がなされたようです。

「※ 事務局から,ここで言う鑑定書の評価とは,鑑定を引受けてもらいやすい環境作りの一つとして,学問的観点とは別に,鑑定の経験を積むということを何らかの形で医学者としての評価につなげていくことを意図するものであり,鑑定の内容の医学的当否を論じるものとは異なる旨説明があった」。

 私たちは、貴委員会が、鑑定人の鑑定経験自体を評価することによって、法曹界から医学界に謝意を示し、その後の鑑定のさらなる迅速化や円滑化をはかることを否定するものではありません。
 ただ、貴委員会としては、単に鑑定経験だけについて評価を与えるだけではなく、質の高い鑑定書については、その質の高さにふさわしい評価を与えることによって、その鑑定人の尽力に報いるべきと考えます。貴委員会がこういった評価を行うことは、貴委員会が望む鑑定書のあり方を幅広く示すことにも繋がり、鑑定の「質」の維持・向上にも資するはずです。

 なお、貴委員会が医学的見地に基づいて鑑定書の内容の医学的当否を検討することは現実的ではないと思われますので、貴委員会では、司法的な見地から、その鑑定書が本来備えるべき要件を具備しているかどうかについて、

1)誠実性:与えられた資料を十分に検討したことが鑑定書の記載からうかがわれる等、鑑定書の内容が充実したものとなっているかどうか

2)論理性:回答が与えられた鑑定事項に対応しているかどうか、あるいは結論と理由に論理的な整合性があるかどうか

3)科学性:自己の経験のみに立脚することなく、文献を引用する等、合理的な科学的根拠を示しているかどうか

といった基準に照らして内容の評価を行うべきです。

 なお、司法的見地からは、当該裁判体においても事案に即して鑑定書の内容の具体的・個別的な評価を行うことになりますが、上記のような個別事案との距離を置いた一般的評価基準を用いることで、貴委員会が各裁判体の独立に配慮しつつ鑑定書の内容を評価することは可能であると考えます。

7 最後に

 鑑定の「質」の維持・向上については、当事者が訴訟手続内において鑑定人に対する尋問等を通じて実現すればよいという意見もありえます。しかし、専門的知識偏在型の典型である医事関係訴訟では患者側当事者が行いうる訴訟活動には自ずと限界があります。また、訴訟内における弾劾的評価という方法以外にも鑑定の「質」向上をはかりうる策があるならば、その実施が望ましいことは言うまでもありません。貴委員会が果たすべき役割は大きいはずです。

 法曹界と医療界の接点に位置する貴委員会が上記に要望した点について積極的な活動を行い、単なる個別訴訟の審理促進だけにとどまらない幅広い役割を果たすことによって、法曹界と医療界の双方が相互に貢献しあう健全な関係性がもたらされることを願ってやみません。

以上
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