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弁護士の声(団員リレーエッセイ)

銀座眼科レーシック集団感染事件

弁護士 川見 未華


朝目覚めたときに、周りの光景がはっきりと見えたなら、どんなに心地よいだろう。

コンタクトレンズをつける労も、めがねをかける手間もなく、「自分の眼」で世界を見たい。

こうした願いを叶えてくれるのが、レーシックだ。

しかしながら、銀座眼科が引き起こした集団感染は、そうした願いを叶えるどころか、医療に対する信頼を大きく揺るがした。

2008年7月から2009年1月の間に、東京都中央区にある「銀座眼科」(院長溝口朝雄元医師,以下「元院長」という。)においてレーシック手術を受けた患者の多数に、角膜感染被害が発生した。

中央区保健所は、2009年2月25日、手術を受けた637名中感染被害者は67名、うち1名は入院したと発表した。その後判明したところでは、角膜手術における感染の合併症発生率は通常0.03%のところ、銀座眼科では約10人に1人の感染率で、実に通常の333倍であった。

集団角膜感染の発症は、元院長が、経営効率や営利を重視し、手術器具の滅菌をしなかったり、角膜を切開するブレードを使い回したりと、基本的な衛生管理を怠ったままレーシック手術を実施していたことによるものであった。被害者は、元院長のあまりに杜撰な衛生管理のために、角膜感染による強烈な痛み、視力低下、視機能低下(不正乱視、コントラスト感度低下)などに苦しめられた。

2009年3月9日、銀座眼科被害対策弁護団(以下、「弁護団」という。)は、立ち上げの記者会見を行い、電話相談を通して、被害の聴き取りを行った。最終的に、97名もの被害者が、弁護団と委任契約を締結した。

弁護団は、活動目的として、被害者の方々とともに、被害回復及び再発防止を掲げ、活動の3本柱として、①民事訴訟(損害賠償請求)・示談交渉、②刑事手続(告訴・告発等)、③行政(医師免許取消の要請等)を据えて活動を進めてきた。

被害者・弁護団員が一丸となって活動を積み重ね、得られた成果は以下のとおりである。

①民事訴訟では、和解により、これまで後遺障害として賠償されることのなかった被害症状(コントラスト感度の低下)の賠償を含む金銭の支払いを受けることができた。この成果は、その分野の専門家医師の方々のご指導とご助力の賜物であった。

②刑事手続では、業務上過失傷害罪で起訴された元院長の裁判手続に、犯罪被害者として参加し(被害者参加制度)、公判廷において、被害者の方々3名から元院長に対して質問をする機会を得たほか、刑事記録により明らかになった事実は、原因究明に大きく寄与した。元院長は、禁固2年の実刑となった。

③行政面では、医師免許取消の要請を行った。この要請は、弁護団が実施した被害者アンケートにおいて、9割以上の被害者が望んでいたものであった。他方、医療過誤を理由として医師免許を取り消した例は把握できた限りでは1件であり、度重なる要望書提出にも行政の反応は薄いように思われたが、2013年9月18日、元院長の医師免許を取り消す旨の処分が下された。

弁護士1年目で途中から入団した私は、この弁護団活動において、諸先輩方が知恵を絞り、工夫を凝らし、時間を惜しみなく費やして数々の難題に立ち向かう姿を目の当たりにした。事件の取り組み方をはじめ、学ぶところが本当に多かった。

また、私にとって、はじめて医療被害者の方々と接した事件でもあった。

被害者の方々は、普段は優しく穏やかでも、被害の話になると一変して険しい表情になり、激しい怒りを抑えながら語り出した。

「被害者の生の声」に触れ、私はとまどった。どのように反応してよいものか、わからなかったのだ。同情ばかりするのも違う気がするし、かといって、元院長の悪口ばかり言っても事態が好転するわけでもない。

結局、ひたすら神妙な表情で、被害者の方々の声に耳を傾けるしかなかった。

実際に被害にあっていない人間に、本当の被害のつらさなどわかるはずがない。だからせめて、被害者の方々の話を何回でもじっくり聞いて、しっかりその声を受け止めようと思った。

被害者の方々の声を聞いて強く感じたことは、医療に対する信頼の崩壊だった。

角膜感染で激痛に襲われたとき、自分の目がどうなってしまうのかと、恐怖を感じたに違いない。目覚める度に、自分の目は見えているか、視力が失われていないかと、不安でいっぱいの朝を迎えていたに違いない。

鮮明な視界を求めてレーシック手術を受けたにもかかわらず、視力を奪われる恐怖を味わうことになってしまったのであるから、医療に対する絶望は、大変なものであっただろう。

このような体験をした方々は、たとえ元院長ではなかったとしても、再度レーシック手術を受けたいと思うだろうか。あるいは、レーシックではなくても、何らかの眼の疾患にかかったとき、眼科医に自分の目を委ねることに、抵抗を感じないのだろうか。

不運にも、ある一人の医師の杜撰な医療行為を受けてしまったことにより、今後、安心して医療を受けることができないことになるのであれば、こんなに残念で悔しいことはないと思った。

被害者の方々が、健康な状態を取り戻し、今後、安心して医療を受けられるようになってほしい。そう願いながら、弁護団活動に取り組んだ。

インターネットでいろいろな情報を得ることができる時代になった。銀座眼科も、インターネットにおいて大きく宣伝し、集客していた。割引クーポンに惹かれて銀座眼科に来院した患者も少なくなかった。中には、価格につられて銀座眼科を選んだ自分を責め続けた方もいた。

しかし、いくら何でも、必要な衛生管理すら怠る医師がいるなど考えられない。低価格は医師の誠実な努力によるもので、安全な医療を提供してくれるという信頼があったからこそ、銀座眼科を選んだのだ。

銀座眼科事件は、こうした患者の信頼を根底から裏切った。被害を受けた方にとっては、「ある特殊な医師による杜撰な医療行為による被害」と割り切ることなどできず、医療そのものに対する信頼を喪失するほどの出来事だったに違いない。

営利にばかり目を奪われ、患者の信頼を踏みにじるような医療行為の責任は、きわめて重大である。

失った信頼を取り戻すのは、難しい。

被害回復だけでなく、再発防止、すなわち、今後の医療の信頼確保のための活動も重要なのだと痛感する。

銀座眼科事件では、異常な医療行為を行った医師の責任を認めさせ、刑事罰を身をもって受けさしめ、医師免許取消という医師生命を断ち切る解決を得た。こうした成果は、元院長が再び同じ過ちを犯すことを防止する効果(特別予防)にとどまらず、あらゆる眼科医に対して、衛生管理の大切さを再認識させる効果(一般予防)をも有するものであっただろう。加えて、医療行為のあり方を再考させ、営利化しビジネス化した医療に対する警鐘を鳴らしたようにも感じている。

私が、この弁護団活動を通して、被害者の方々、ひいては国民の医療に対する信頼回復に少しでも貢献できたのならば、本当にうれしいことだと思う。

医療が必要でない人はいない。安全な医療が提供されることは、誰しも共通の願いのはずである。

患者が安心して医療を受けられるようになるために、どんなことができるのかを考えながら、今後も弁護士としての活動を続けていきたい。

以上
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