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医療事件と被害の回復

弁護士 内 藤 雅 義

1 医弁の原始会員

 弁護士になったちょうど30年前、医療問題弁護団が発足した。したがって医療問題弁護団の原始会員である。当時は全くの手探りで、私が最初の頃受任した事件は、証拠保全の準備に6ヶ月、それから提訴まで1年半、提訴から一審判決(勝訴)まで8年、結局、高裁での和解まで受任から11年を要した。当時は、事前に陳述書を出すという慣行はなく、被告医師の反対尋問に3期日かけるのが当然という時期であった。その後、経験の蓄積、医弁の研鑽等による患者側の弁護士の力量の向上のおかげで(民事訴訟法の改正等もあるが)、訴訟になってもかなり早期の解決が図られるようになってきた。

2 真の解決とは

 では、真の解決とは何であろうか。
 医療事件に限らず、被害事件にかかわる弁護士の仕事は、被害者の被害の回復のサポートをするということではないかと思う。被害の回復とは、被害者が被害と向き合って、これを乗り越えて生きていく力を取り戻すことである。しかし、それは非常に難しい。
 上記で述べた事件は、妊婦が悪阻で産婦人科に入院したところ、副腎皮質ホルモンの投与及び離脱を誤って誘発感染症により死亡したという事案であった。ご主人とお子さん、奥さんの両親が原告だったが、ご主人が再婚、再婚しながら前妻の訴訟を継続するというストレスが一つの原因だと思われるが、ご主人が和解後まもなく、癌で死亡した(40代前半)。原告であったお子さんは、結果的に両親ともなくした。訴訟には勝ったが、この事件は被害者(原告)にとって辛いだけの訴訟となった。

3 被害の回復にとって必要なもの

 私は、被害者が被害を回復する上で、最も必要なものは、人間に対する信頼の回復だと思っている。一番、不信が強いのは、相手方医師、医療機関に対するものであるが、自分自身に対する不信もある(子供を亡くした親は、自分を責め続けていることが多いが、自分のその後の行動を通じて自分への信頼を回復しようとしているように思えてならない)。
 相手方医療機関への信頼の回復は、一つは、謝罪という形で、もう一つは、再発を繰り返さないという姿勢によって示される(賠償もその一環である)が、両方を満たすことは、非常に難しい。医弁の事件でもあったハンセン病の医療過誤訴訟(全生園医療過誤事件)における和解では、医療機能評価機構の審査を受けさせる約束を勝ち取ることが出来たにもかかわらず、医師の謝罪を勝ち取ることが出来なかった。
 いずれにしろ、被害者の人間信頼の窓口となる弁護士には、信頼に足る力量(この点、若手に完全に遅れている)と人間的な信頼を得るだけの人間性が必要なのだろう。
しかし、いずれも極めて欠如していると痛感している今日この頃である。